ハリル歓涙!初戦黒星、主力負傷、解任危機を乗り越えてロシアW杯出場導く
「W杯アジア最終予選、日本2-0オーストラリア」(31日、埼玉スタジアム2002)
次々とあふれてくる涙を抑えるように、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(65)は夜空を見上げていた。「日本国民の勝利。この勝利を日本国民全員にささげたい」。6大会連続となる夢切符をつかんだ指揮官は、万感の思いを口にした。
勝利の瞬間は、今までにない、大きな大きなガッツポーズだった。タイムアップの笛が響き、5万9492人が集まったスタジアムの片隅、もろ手をあげた指揮官はスタッフ、選手たちと喜びを分かち合った。「たくさんの困難があったが、今晩、選手が見せた姿を誇りに思う。英雄のような姿を見せてくれた」。
哲学を貫いた。昨年10月のアウェー決戦時は、守備を固めてカウンターを狙うサッカーで1-1のドロー。時に「守備的だ」と批判も浴びた。同じく引き分けた6月のイラク戦後も采配を批判する声もあったが、指揮官は「批判が始まった時、より力強くやってきた。それが私の性格」。この日は中盤に、ボール奪取能力とスタミナが持ち味であるMF井手口、山口を配置。相手にボールを持たれることを前提に、立ち上がりから激しいプレスをかけ続けて、相手の長所を封じた。
真骨頂を見せた。相手を徹底的に分析して勝負どころを探るのは、W杯16強に導いたアルジェリア代表監督時代と同じスタイル。最終予選のここまで9試合は、すべて異なる先発メンバーが起用されている。相手を見て、勝利から逆算して戦術を練る。負けず嫌いの勝負師は、一方でしたたかな戦略家としての顔も持つ。
積年の課題でもある、世代交代も進めてきた。最終予選の初戦・UAE戦では敗れたもののMF大島(川崎)を先発に抜てき。「その時点でベストだと思う選手を使うのが私の考え」。この日は若きFW浅野、MF井手口が得点を記録。予選を通じてFW原口、久保も大きく成長して勝利に貢献した。“勇気”を持ってまいた種は、着実に育っている。
完遂させたロシアへの旅路。そして、W杯本大会に向けたハリルジャパンの“第2章”が始まっていく。
W杯出場決定後、ハリルホジッチ監督はひそかに抱えていた悩みを激白した。試合後の会見場に拍手で迎えられると深々と一礼し、「実はプライベートなことで大きな問題がある。サッカーとは関係ないが、その問題によって、試合前に帰ろうかと思うまでの大きな問題」と明かした。詳細は語らず、日本協会は「家族の問題がある」とだけ説明した。サウジアラビア遠征には帯同する。
主将のMF長谷部は「合宿が始まってから『すぐに帰りたい用事がある。でも戦わないといけない』と話していた。僕自身は人生にはサッカーよりも大切なものがあると思いますが、監督の決断ですので」と心情をおもんばかった。