森保イズム 52年ぶりメダルへ3つの資質と2つの姿勢若き侍に求む!
昨年11月1日付で就任した東京五輪男子日本代表の森保一監督(49)が、本格始動となる2018年に懸ける思いをデイリースポーツに語った。同12月にタイでの国際親善大会で船出。18年は1月のU-23アジア選手権(中国)で初の公式大会に臨む。銅メダルに輝いた1968年のメキシコ五輪以来となる五輪メダル獲得へ、どんなチームを作っていくのか。J1広島を3度のリーグ制覇に導いた“森保流”のアプローチを明かした。
思い描く東京五輪代表像がある。「どういうスペシャルなものを持っているのか。あとはメンタル的にタフに戦っていけるかという部分。チームとして活動するので協調性というところは見ていきたい」。「個性」「精神力」そして「協調性」。3つの資質の共存を選手に求める。最重視するのは「個性」だ。
「自分の特長を持って、突き抜けていってもらえるようにしたい。ダメなところを指摘して直していくのではなく長所を認めつつ、これだけは改善しようということにアプローチしていきたい」
選手のことを「怪物がプロとして生きていく」と独特の表現で評す。その意図を「プロは普通ではないところ。(さらに)代表になっていくとか、普通ではなれないところだと思いますので」と説く。
「怪物」-。つまり、凡人にない力や技、突出したものがあるからこそプロになり、代表になる。まずは、その潜在能力を開放させる。その上で、強い個性の集まりを一つのチームとして構築する。
「ヤンチャな選手とか、個の強烈な力を持っている選手は認めていきたい。チームの他の選手とつながりを持って、協力し合って、初めてプラスアルファの力を発揮できるというところは伝えつつ、良さを出してもらいたい」
自身の全国デビューは、意外にもGKとしてだった。小学6年の時、土井首SSSで全日本少年サッカー大会に出場。「GKの子がけがで練習を休んでいるときにたまたまやったら、お前がやれって。3カ月くらいやりました。素質?なかったです」と笑う。
その期間を除けば、FWを中心に攻撃的ポジションでプレーして中学、そして長崎日大高時代を過ごした。87年。自信満々で当時JSLのマツダ(現J1広島)入り。だがいきなり壁に直面した。「上には上がいる。自分が一番だと思っていましたが、広島に行ったら序列で一番下だなって分かって」。大海を知った井の中の蛙(かわず)。1つの出会いが、人生を変えた。同じ87年に監督に就任したハンス・オフト氏だ。
「選手を見抜くというか、適性を見抜いてもらった。守備的な中盤の仕事が合っているだろうということを見ていただいて、そこで成長するために必要なことを植え付けてもらえた」
FWから守備的MFへのコンバート。サッカー人生は激変した。後に日本代表監督も務めたオフト氏の考えを受け入れた先には、プロとしての大成と日本代表への道が続く。「ボランチ」という言葉が日本に浸透したきっかけにもなった。そのポイントとなった金言が、受け入れる「柔軟性」と実践できる「対応力」。2つの金言を体現した。
昨年12月に初陣を踏んだ。同5月のU-20W杯に出場していないフレッシュなメンバーでタイに遠征し、国際親善大会「M-150杯」で準優勝。相手が3歳年上のU-23だったことを考慮すれば上々の船出だった。“金言”はそのタイ遠征でも選手に対して頻繁に使われた。
「自分の考え、信念を持ってぶれないことも根幹のところでは必要。でも選手をやっていく中でいろんな監督の下であったり、いろんな戦術の中でやったりとか、試合の中でも想定外のことは多い。『柔軟』に『対応』することは必要。言い続けたい」
加えて言う。
「私もスタッフもいろんなことが起きると思うが、そのときにいかに対応して、解決して先に進んでいけるかが大切。そこは選手、スタッフ、そして自分にも言い聞かせながらやっていきたい」。「柔軟性」と「対応力」。“チーム森保”全体の姿勢とする思いだ。
きめ細かな対話路線も森保流だ。意図を完全に伝え切る。個を伸ばす時、弱点を補う場面、チームコンセプトを伝える場。さまざまな状況で、意思の疎通は欠かせない。
「(広島監督時代に)選手が移り変わっていく中で、当たり前だと思っていても当たり前に事が進まなくなったりということは経験してきた。伝えたつもりではなくて、選手がやってくれて実践してくれて伝わったと、より感じながらやれるようにとは思います」
言葉を変えて、丁寧に何度でも説明する。実践する姿を見て、初めて落とし込めたことを確認する。
1964年の東京五輪はベスト8。68年のメキシコ五輪では銅メダルに輝いた。52年ぶりのメダル獲得を目指す2020年の東京五輪。大きな期待を背負い、監督としての注目度もこれまでの比ではない。就任以後の状況に「慣れないと思います」と苦笑いして、言葉を続けた。
「プレッシャーもいい意味で力にさせていただければなと思います。期待とか応援してくださるということは、我々にとってはこの上ない後押しだと思います。ポジティブに、力に変換してやっていきたいと思います」
淡々とした語り口調に実直さをにじませる。その内面に指導者としてのしっかりした指針がある。視線は2年半先、“森保ジャパン”の完成品を東京五輪で披露する。