セレソンを“リトマス試験紙”に使った日本代表監督 2014年10月14日
世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。日々の生活はもちろんのこと、さまざまなスポーツにとっても甚大な影響を及ぼしている。そんな中で、日本サッカー協会の公式You Tubeでは多くの動画が配信されている。気になったのは、過去の日本代表戦をフルサイズで流していることだ。
現在配信されている試合のうち、過去に取材した中で印象深かったのが2014年10月14日に行われた、国際親善試合のブラジル戦。この一戦は、3戦未勝利に終わったブラジルW杯から、ハビエル・アギーレ監督を迎えての新体制4戦目で、舞台はシンガポールだった。結果は0-4と完敗。当時バルセロナのネイマール(現パリ・サンジェルマン)に4発をやられた試合だった。
試合会場となったシンガポールのナショナルスタジアムは、同年に会場された施設で、芝生が十分に根付いていなかった。試合前には両チームから劣悪なピッチへの不満が聞かれたが、ふたを開ければ技術の差は明白。「ビーチサッカーのピッチみたいだ」とため息をついていたはずのブラジル代表は苦もなくボールをコントロールし、アギーレ・ジャパンを手玉にとっていた。
王国の強烈な実力も印象的だったが、もっと驚いたのが日本代表の先発メンバーだった。当時ACミランだったFW本田圭佑(現ボタフォゴ)、同インテル・ミラノのDF長友佑都(現ガラタサライ)、サウサンプトンの吉田麻也(現サンプドリア)といったW杯での主力はベンチスタート。アギーレ監督は守備陣ではDF太田宏介、塩谷司、MFでは田口泰士、森岡亮太、柴崎岳、そしてFWでは小林悠といった、Jリーグでの活躍が著しい選手を多く先発で送り込んだ。試合前に、メンバー表が配られると、セレソンに帯同していたブラジルメディアが日本のメディアにあわてて「ホンダはケガなのか」、「ナガトモはどうした」などと質問をしていた。
ブラジル代表といえば、いつの時代だって世界最高峰の代表チームだと思う。そことの対戦機会があれば、現在のベストメンバーをぶつける力試し、もしくは世界における自分たちの現在地を探る-。そういった考えが定石ではないかと思っていたが、当時のメキシコ人指揮官にとっては違った。アギーレ監督は試合後、「逆境での選手の状態を見ることができた」と語った。
国内リーグで結果を出し、4年後のW杯に向けて代表定着を目指す若手選手。その中で、世界と戦えるのは一体誰なのか-。当時の代表スタッフに尋ねたところ、指揮官はそんなことを知りたがっていたという。ブラジルという相手に臆することはなく食らいつけていたいのか、少しでも可能性を見せられたのか、試合中に劣勢を改善しようとチームに働きかけるのか。過去、日本代表が未勝利のブラジルを、いわば今後の伸びしろをはかる“リトマス試験紙”のように使ったのだ。手法の是非はともかく、ある意味で目が開かれる采配だった。
アギーレ氏はスペイン・サラゴサの監督時代の八百長疑惑に巻き込まれ、15年2月に契約解除(昨年12月に、スペインの裁判所から無罪という決定が出た)となった。就任期間が短く、アギーレ・ジャパンの完成形というものを想像するのは少し難しい部分があるが、指導に関して選手たちの反応はポジティブなものが多く、期待していた部分もある。
ちなみにこのブラジル戦が国際Aマッチ3試合目だった22歳の柴崎は、親善試合とは言え同じ92年生まれのネイマールに4得点を許し、他にも世界のトップを体感したことで、試合後にこんな言葉を残していた。「成長速度が並大抵では、僕の現役中には対応できない」。4年後のロシアW杯での活躍を見れば、このシンガポールの衝撃体験もまた、一つ大きな要素だったのかもしれない。
「Stay Home」が続く日々。過去の代表戦が、後にどんな影響を選手に与えたのか。試合映像を振り返りながら、そんなことを考えるのも悪くないのでは。