「サッカーをやるために日本まで来た」 J再開決定に笑顔戻った広島MFエゼキエウ
インタビュー用のマイクの前に立ったブラジル人の青年は、突然歌い始めた。
「まーえ、うしろ、みーぎ、ひだり」
意味はよくわからない。でも彼は楽しそうに日本語でのオリジナルソングを歌いながら、腰をくねらせ、踊った。選手もスタッフも、そして報道陣も、J1広島・MFエゼキエウのダンスを見て、大いに笑った。リーグ再開がほぼ内定した日の出来事だ。
22歳のブラジリアンは本来、底抜けに明るい。クールダウンの最中、カメラを向けるとウインクして親指を立てる。ほぼ同世代の浅野雄也と一緒に笑い転げる。お風呂の中でも大きな声で歌う。しかし今回のコロナ禍によって、彼から笑顔が消えた日々が存在した。
鹿児島キャンプに合流した1月下旬、エゼキエウは快活に言葉を吐き出していた。
「実は結婚したばかりなんだ。今は僕がキャンプ中だから(新妻は)ブラジルにいるけれど、シーズンが開幕したら日本に来てくれる。その日が本当に楽しみだ」
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、日本とブラジルの往来が困難となった。新妻を呼び寄せることも叶わず、また自分が帰国することも難しい。言葉も分からず、チームメート以外は友人もいない。仕事に打ち込みたくても、Jリーグは再開すら不透明。あれほど陽気だったエゼキエウはふさぎ込みがちになり、笑顔も消えた。時には「今日はごめんなさい」と取材を断ることも。とてもではないが、話をできる状態ではなかった。
しかしハイネルやドウグラス・ヴィエイラらブラジル人選手たちの励ましやクラブの手厚いサポートもあり、練習再開後は彼らしい笑顔を取り戻した。
「自分はサッカーをやるために日本までやってきた。7月4日の再開が決まったことで、ようやく始まると実感できたことが嬉しい」
切れ味の鋭いドリブル、スピード、技術。プラジルの名門・ボタフォゴでレギュラーを張った実力に疑問の余地はない。広島の切り札、準備はできている。(紫熊倶楽部・中野和也)
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◆エゼキエウ 1998年3月9日生まれ。ブラジル出身。167センチ、65キロ。ポジションはMF。ボタフォゴ(ブラジル)の下部組織で力をつけ、17年にトップチーム昇格。昨季はスポルチ・レシフェ(ブラジル)とクルゼイロ(ブラジル)に期限付き移籍し、今季、広島に完全移籍した。