工藤壮人さん【悼む】阪神の話題にも真剣応対、優しい笑顔忘れられない

 ひょっとしたら信じていただけないかもしれない。囲み取材が終わった後、そそくさと近づき阪神タイガースの話題を振る私に、工藤壮人選手は「お、来ましたね」と顔をくしゃっとさせて応じてくれる。邪険にされてもおかしくない状況で“デイリースポーツの記者”を助けてくれた。

 私が柏レイソルを取材した2013年、前任者から工藤選手が大の虎党であることを聞いていたため、サッカーの話の後に雑談をさせてもらっていた。赤星憲広さんを見習い社会奉仕活動に取り組もうとしていること。鳥谷敬の持つオーラに興味を持っていること。重圧の中で結果を残す新井貴浩のメンタルについて経験談を聞いてみたいということ(当時現役の選手は敬称略)。立ち話でも、席を設けてのインタビューでも、こちらの聞きたいことを察しているかのように真剣に答えてくれた。

 練習場では、引き揚げる工藤選手をいつもたくさんのサポーターが待っていた。たくさんの差し入れを受け取り、途切れるまで写真撮影にも応じるのが日常の光景だった。自分が何をできるか。自分が何を残せるか。ピッチの中ではもちろん、それ以外の場面でも常にそうしたことを考えていた人だと思う。

 当時、「いつかは(欧州)チャンピオンズリーグに出たい」という野心も、もちろん持っていた。個人としての活躍(=ゴールへの意欲)と献身性が同居したストライカーだった。2013年ナビスコ杯(現ルヴァン杯)決勝で優勝を決めたヘディングは抜群の嗅覚を発揮していたし、相手守備をものともせず強引にネットに突き刺すミドルシュートも印象的だった。ゴールから遠いポジションで起用されても、一つ一つのプレーに魂のようなものを感じた。

 デイリースポーツ紙上でタイガース関連の企画を…という話もあったが、実現できなかった。「また、いつでも声をかけてくださいね」。ほぼ1シーズンしか担当できなかった私に対しても、優しく向けてくれた笑顔が忘れられない。(2012年~14年サッカー担当・広川 継)

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