ありがとうイニエスタ 日本ラストマッチで万感の涙「サヨナラは好きじゃない。また会いましょう」
「明治安田生命J1、神戸1-1札幌」(1日、ノエビアスタジアム神戸)
J1神戸の元スペイン代表MF選出アンドレス・イニエスタ(39)が本拠地での札幌戦に今季初めて先発で出場し、愛する神戸のファンに別れを告げた。キャプテンマークをつけ、攻守に躍動した背番号8。後半12分で交代し、ゴールこそ決められなかったが、レジェンドの最後の勇姿に超満員のスタンドから割れんばかりの拍手が注がれた。試合は1-1の引き分けに終わった。
涙が止まらなかった。真っ赤な目を何度も拭った退団あいさつ。試合後、イニエスタはピッチ上で日本への万感の思いを込めた。「お別れを言う時がきた。サヨナラは好きじゃない。また会いましょう。私たちは日本に戻って来る。ここが自分たちの我が家のようなところ」。ノエスタ最多2万7630人から大拍手、歓声が鳴り響いた。
セレモニーで神戸の全選手が並び花道を作った。アンナ夫人、子供5人と場内を一周。ゴール裏を埋めたサポーターに一家で日本式にお辞儀した。そして観客席に入り込みファンに感謝の言葉を伝え、最後はチームメートらに胴上げされた。
ノエスタが神戸がイニエスタ一色に染まった。試合前から惜別チャント(個人応援歌)の大合唱。超満員の観客席では、赤と白のボードを掲げた人文字「コレオグラフィー」で、巨大なユニホーム姿の背番号「8」と「ANDRES KOBE」が描かれた。
何度も夢を見させてくれた“魔法使い”は司令塔のトップ下で今季初先発。0-1の前半37分、左サイドでMF汰木とワンツー。ドリブルで切り込み、右足を振り抜いた。相手DFに阻まれたが、会場をどよめかせた。
後半12分に交代。万雷の拍手の中、キャプテンマークをMF山口に引き継ぎ、抱き合った。試合は終盤に追い付き執念のドロー。有終の白星締めこそならなかったが、色あせない輝きを見せ、5年に及んだイニエスタ時代は終わりを告げた。
今季は開幕から故障で出遅れ、復帰後も戦力構想から外れた。神戸で引退する希望も持っていたが「ピッチで選手として引退したい」と、出場機会を求め退団を決断。新天地への移籍を選択した。
5年間、日本に植え付けた世界基準。プレーはもちろん、その人間性を誰もがたたえる。昨季、開幕から低迷し残留争いをする中、崩壊寸前のチームを立ち直らせたのはイニエスタの献身があった。
ミーティングで鼓舞し、結束を深める食事会も開催。個性の強いスター軍団はイニエスタなしではバラバラだった。主将を継ぐ山口は「すごくプロフェッショナル。キャプテンとしていろんなところを理解していた」と、存在が財産だった。
34年過ごしたスペインを離れ日本を選んだ。母国では街も自由に歩けないスターが神戸は別世界。「家族でセンター街を散歩するだけで楽しい」。美しい港町は第二の故郷だ。
5月の退団会見で言った。「この素晴らしい国との関係性はこれからも大事。最大の形で日本サッカー界に貢献し続ける」。日本とイニエスタ、その絆は変わらない。
◆アラカルト
▼アンドレス・イニエスタ
(本名 アンドレス・イニエスタ・ルハン)
◆生まれ 1984年5月11日、スペイン・アルバセテ県フエンテアルビージャ出身
◆家族 アンナ夫人と2男3女
◆サイズ 171センチ、68キロ
◆利き足 右
◆サッカー歴 8歳の時に地元アルバセテの下部組織に入団。12歳でバルセロナの下部組織に移った。当初は守備的MF。2002年にトップチームでデビューし、神戸に移籍するまでバルセロナ一筋。17年10月にはクラブ史上初の「生涯契約」を結ぶ
◆愛称 「手品師」「頭脳」「青白い騎士」。バルセロナ下部組織出身者の「最高傑作」とも評される
◆欧州32冠 バルセロナで計32個のタイトル獲得。内訳は欧州チャンピオンズリーグ4回、リーグ9回、コパ・デル・レイ6回、スペイン・スーパー杯7回、クラブW杯3回、UEFAスーパー杯3回
◆クラブ歴代2位 リーグ戦通算443試合出場(35得点)はクラブ歴代2位。スペイン代表では通算129試合13得点。W杯には06年、10年、14年と3大会連続出場。18年ロシア大会のスペイン代表にも選出
◆ワイン好き ワイン愛好家として知られ、故郷にワイナリー「ボデガ・イニエスタ」を所有。日本でもネット通販で購入可能
◆神戸にアカデミー 19年に神戸市の子供たちと日本のサッカーの未来を育むプロジェクト『イニエスタメソドロジーアカデミー』創設。現在兵庫県内3カ所のスクールで小学生を中心に指導。昨年は女子コースも新設