【5大ザックの素顔4】哲学を曲げない
今年用のチームスーツをザッケローニ監督が試着した時のことだった。「なんだ。袖が短いじゃないか」。採寸ミスを主張する監督だったが、実際は日本よりも量が多いイタリアの食事で胸回りが太ってしまい、ぜい肉で袖が引っ張られていただけだった。原専務理事にそう冷やかされても「違う。採寸が悪い」の一点張りだったという。
ひと言で言えば、意地っ張り。スーツに関しては笑い話だが、仕事でも簡単には哲学を曲げない。
昨年のコンフェデ杯では「個か、組織か論争」なるものがあった。ブラジルとの初戦では、守るのか、攻撃的にいくのかで一体感を欠いて0‐3の完敗。本田や長友らが個の力を伸ばすことが大事と公言していたこともあり、チームには微妙な空気が漂っていた。
その後、監督は長谷部主将に、こう念押しした。「君たちの言う個とは、自分勝手にプレーすることではないよな」。長谷部によると「自分はイタリア人だから、日本人の細かな性格は分からないところがある」と腹を割って話し、チームのあり方を話し合った。
それを受けて、選手によるミーティングでも“個=自分勝手なプレー”ではないことを確認。次のイタリア戦では3‐4で敗れたものの、攻撃的なサッカーで一時2点をリードし、世界を驚かせた。
それから約9カ月が過ぎた。あれほど個について訴えてきた本田ですら、5日のニュージーランド戦後には「個を求めたと書かれるのは本分ではない」と、チームとしてのレベルアップについて語った。指揮官の哲学に本田が合わせた、というのは言い過ぎだろうか。