西野監督「究極の選択」 フェアプレー捨ててでも…“負け逃げ”突破で16強
「ロシアW杯・H組、日本0-1ポーランド」(28日、ボルゴグラード)
日本は1次リーグH組の最終戦でポーランドに0-1で敗れたが、同組2位で16強進出を決めた。勝ち点、得失点差、総得点、直接対決の結果でもセネガルと並んだが、警告数の少なさが反映される「フェアプレーポイント(FP)」の差で上回った。終盤には西野朗監督(63)が0-1のままで試合を終わらせることを指示。賛否両論渦巻く決断となったが、そこには指揮官の緻密な計算があった。2大会ぶりの決勝トーナメントに臨む日本は、G組1位のベルギーと7月2日(日本時間3日)にロストフナドヌーで対戦する。
西野監督は“2つのピッチ”を見つめていた。刻一刻と進む時間の中で目まぐるしく変わる状況。迫られる決断。自分の信念でもあり、選手に植え付けてきた哲学。さまざまな事象と思いが交錯する中、指揮官の脳は高速回転を続ける。
「W杯のグループステージを突破するため、究極の選択だったかもしれない」
喜びとは対極と言える表情で、西野監督は運命を分けた瞬間を振り返った。試合終了まで残り10分強を自陣でボールを回し、日本は攻めようとしなかった。スタンドからは地鳴りのようなブーイングが響いた。
0-1のまま試合を終わらせ、他会場のセネガル-コロンビアも同スコアで終了すると見た。確かに綱渡りの采配は、一見すれば他力に頼った賭けにも見える。だが、それは決して博打(ばくち)などではなく、徹底的なリアリズムに裏打ちされた計算だった。
リードを許した後半途中、コロンビアが先制点を奪う。そのまま試合が終われば、日本は警告が2枚少なく、FPでの2位が決まる。将が秤(はかり)にかけたのは、H組4チームの現状だった。セネガルにリードしたコロンビアは、勝ち切らなければ敗退の可能性がある。セネガルは、ポーランドが日本を相手に追加点を決めるか、日本が警告を重ねない限り、追い付かなければ敗退する。既に敗退決定のポーランドが何よりも欲してるのは、追加点よりも勝ち点3。そして日本は1位突破のためには、ポーランドから2得点を奪って逆転する必要があった。
自らが関与できない他会場の結果を考慮する危うさ、リスクは重々承知していた。だが状況を整理し「合理的に」と導き出した結論は「自分の信条としては不本意」という“負け逃げ”だった。
決してぬぐえない苦い経験が、決断の裏にあった。勝ち点6を挙げながら得失点差で1次リーグ敗退となったアトランタ五輪。守備を固めつつブラジルを撃破した“マイアミの奇跡”は今でも指揮官の代名詞。だが守備的な内容と、大会としての成績から当時の協会の評価は低く、その後の指揮官は反骨心から攻撃サッカーに傾倒した。己を支える信条を曲げてでも「是が非でも突破をというのは、自分の中では(五輪の)リベンジができたと思いたい」。
是とするか、非とするか。それはおそらく西野監督自身も確たるものとしては定まっていない。ただ、過去の経験から、次なる戦いに駒を進めることを最優先した。この決断が、未来につながると信じて。