パチンコ店駐車場の悲劇を繰り返すな~KEI氏が語る児童虐待の現実
真夏の炎天下にいると、これまで何度も報じられてきた後味の悪いニュースを思い出す。母親がパチンコ店の駐車場に止めた車中に乳幼児を放置して熱中症で死なせてしまう事件だ。このケースに限らず、児童虐待が社会問題化して久しい。民間で現状と向き合う1人のカウンセラーから現場の声を聞いた。
昨年9月、神奈川県からNPO法人に認可された「グッド・ファミリー」を運営するKEI(ケイ)氏。引きこもりや育児放棄された子どもたちに無料開放した「ホーミー・マリン・クラブ」(平塚市)でジェットスキーなどのマリンスポーツやバーベキューなどを通して交流し、「子ども食堂」を開いて食事を無償で提供する。相談に乗り、その後のケアに奔走している。
1961年、東京生まれのKEI氏は10代半ばでヤクザの道に進んだ。91年にハワイでFBIのおとり捜査にはまり、10年以上、米国本土の刑務所で服役。孤立無援の日本人として何度も生命の危機にさらされたが、所内で「チカーノ」と呼ばれるメキシコ系米国人たちと仲間になって多くのことを学んだ。
出所して帰国後、少年時代から世話になった刑事に「社会奉仕しろ」と言われたことを契機にカウンセリングを始めて13年。メディアやイベント出演、小学校などでの講演活動を続け、その生き様は「チカーノKEI」というタイトルで漫画化された。今夏には4冊目の著書「プリズン・カウンセラー」(東京キララ社)を出版。壮絶な人生を描いたこれまでの著書から一転、同書ではカウンセラーとして直視した日本社会の“底辺”の現実がつづられている。
冒頭のケースでいえば、KEI氏はギャンブル依存症の母親から子どもを預かっている。その実態の一例を明かした。「子どもの登校と同時に、お母さんは開店前のパチンコ屋に並び、(玉が)出ない時は金を持っていそうな男の人に『3万円でどう?』と声をかける。それで金が入ったらまたパチンコやっての繰り返し…」
寄る辺ない子どもたちの行き場は?。「行政が(民間に)頼んでいる『こども食堂』は無償ではなく、安くしても200円は取るわけですよ。それすらない子どもはどうやって食べるんだというのが自分の言い分。さらに食べ終わると食堂から帰されるので、コンビニの前とか大型量販店などにたまり、年上の不良グループに入ってしまう悪循環が生まれる。うちの『子ども食堂』は無料で、食後もスポーツやDVD鑑賞などで時間を過ごせるようにしています」
虐待の根っこは深い。「子どもが3人いるとしても虐待の対象はその内の1人なんですよ。その子が生まれる時に旦那さんが浮気していたとか、何らかの理由があるんですね。まずその理由を見つけて、子どもはそれに関係ないんだと少しずつ説明するんですけど、どうしても虐待が続くとなれば、児童養護施設に入れてもらう手続きを自分がします」
警鐘を鳴らす。「生みっ放しの親が多過ぎますね。自分も育児放棄されたんですけど、親戚がいっぱいいたから行けるところがあった。今の育児放棄された子どもは親がきょうだいや親戚と付き合いしていないから、本当に行くところがないんです。そこに問題があると思うんですよ」
この夏も毎週末、30~40人の子どもたちがホーミー・マリン・クラブまで遊びに来ている。今後の展開について、KEI氏は「10代後半、義務教育が終わっても、手に職もなく、何をしていいのか分からない子どもたちがうちのマリーナに来るんですね。そういう子たちに何ができるのか、何をやりたいのかを聞いて、できる限りの援助はしてあげたい」と語る。さらに、引きこもり、薬物中毒…。相談は後を絶たない。(デイリースポーツ・北村泰介)