宮本武蔵ゆかりの地で神社の干支制作22年
数年前、テレビのドラマで放映されるなど、宮本武蔵生誕の地として知られるようになった、兵庫県太子町宮本の石海(せっかい)神社。この地に22年前から干支(えと)をわらで作り続ける手先の器用な“おじいちゃん”が住んでいる。
三輪彪(たけし)さん(83)がその人で、毎年同神社の境内に掲げる干支を制作しているのだ。
最初に取材に行った6月初めは、来年の干支である戌(いぬ)を制作し始めたところだった。ベニヤ板を戌の形に切り、そこにドリルで2ミリの穴をランダムに無数に開ける。縫うのは長さ約15センチの畳を作る時に使うであろう大型の針にたこ糸を通し、それでわらを縛って固定していく。分厚い部分はペンチを使って下から上へ引き抜く感じだった。
「孫が来たときに喜ぶから」と最初に作ったネズミがあまりにも見事で、それを見た近所の人が、「燃やしてしまうのは惜しい」ということで、神社の本殿前に飾り、初詣などに訪れた参拝客の目を楽しませるため、それ以来毎年作り続けている。
「今まで一番苦労したのは竜。架空の動物なので姿を見たことがないし、写真もないからね」。それでも画家の絵を参考にして完成にこぎ着けたという。
この日もガレージで制作中に「気の向くままにやっている。今年は大中小の3体作る予定だけど、コン(根気)のいる作業なので、他に頼む人もいない。90歳までは現役のつもりだけど、きりのいい干支がちょうど2回りする2年後のイノシシでやめようかと思っている」。
娘の智加子さんは「徐々に年を取って、干支は小さく、時間もかかるようになってきた。それでも石海神社の干支がなくなるのは寂しいので、体の続く限り頑張ってほしいです」と、時間があるときは嫁ぎ先から応援に駆けつけている。
「以前、見たこともない人と家の中で話しているので、誰かと思って聞いたら、初対面の人に今までの写真を見せているんです。これには驚きました」。人のいい彪さんは、苦笑しながら私にも今までの写真を全て見せてくれた。
確かに“若い頃”のものは大きくて、特にヘビは小さな子供がそれを見て泣いたというほど怖い顔で、長さも10メートル近くあり、燃やすのが惜しいというのが分かるくらいの素晴らしい出来栄えだった。
石海神社の参拝客も、この干支を見たいファンがいるおかげで、年々増え続けているそうだ。
今かかっている酉(とり)は例年通り12月の第1日曜日に戌に切り替わる予定。その後、惜しまれながらも来年1月のとんどで役目を終えるという。
己と闘い独りでここまで続けてきた“宮本の人間国宝”彪さん。私も1ファンとして次の寅(とら)まで-。いや、いつまでも頑張ってもらいたいと願った。(デイリースポーツ・柴田直記)