古都奈良で「カープ優勝ふるまい豆腐」のなぜ?

 プロ野球の広島東洋カープが37年ぶりのリーグ連覇を果たし、興奮も冷めやらぬ9月20日、外国人観光客でにぎわう古都奈良で、カープ優勝記念の「豆腐の無料配布」が行われた。広島と奈良の共通点として思い浮かぶのは、奈良公園と宮島にたわむれる鹿くらい。なぜ奈良でカープなのか?そしてなぜカープ優勝で豆腐なのか?

 午後1時半過ぎ、近鉄奈良駅前の広場に突如現れた赤備えのスタッフたちが手にするのは、真っ白な豆腐、豆腐、豆腐。カープの帽子にカープの法被、ズボンや靴まで全身真っ赤でキメた「きたまち豆腐」店主の藪田洋輔さん(40)が、昨年に続いて計画した「豆腐の消費拡大キャンペーン」のふるまい豆腐が始まると、待ち構えていた人たちや通りすがりの観光客が列を作り、約200丁用意した手づくり豆腐は20分ほどでなくなった。

 しかし、テーブルの前をよく見てほしい。晴れがましくプリントされているのは「広島東洋カープ連覇おめでとう」の文字。奈良生まれ奈良育ちの藪田店主、実は小学1年生から大のカープファンなのだ。2009年、阪神なんば線の開通によって甲子園と一直線になったはずの奈良だが、言わずと知れた近鉄王国。当時の野球少年はパ・リーグは「近鉄」、セ・リーグは「巨人」か「広島」のファンが多かったのだとか。

 13年にオープンした「きたまち豆腐」は現在、奈良市内に2つの店舗を構える。厳選した国産大豆を使って毎朝手づくりされる、なめらかでもっちりとした豆腐のほかに、豆乳おからドーナツや豆乳プリン、この夏登場した豆乳ソフトクリームも好評だ。店主自らラッパを手にしたリヤカーでの引き売りは、奈良のちょっとした風物になりつつある。

 とはいうものの、豆腐消費は年々減少、製造事業所も5万以上あった1960年(昭和35年)をピークに今では全国で8000カ所ほどに。県内の豆腐店で修業したあと、「豆腐受難時代」にあえて独立開業した藪田店主の「豆腐愛」と、店内の壁一面にカープグッズを飾るほどの「カープ愛」、この2つが「カープ優勝記念ふるまい豆腐」を実現したというわけだ。

 さらにこの日は「奈良に熱烈なカープファンがいるらしい」という情報を聞きつけた広島ホームテレビ「あっぱれ!熟年ファイターズ」がふるまい豆腐の取材に。番組のMCを務める渡辺弘基氏とレギュラーの松本裕見子さんも豆腐の配布に参加した。渡辺氏はカープ初優勝の75年(昭和50年)に中継ぎとして活躍、当時の古葉竹識監督から「陰のMVP」とたたえられた往年の名選手。「タイガースファンも巨人ファンもどうぞ!」と豆腐を配っているところに、愛用するタイガースグッズを見せつけながら豆腐をゲットするつわものの女性も。

 カープ優勝が、遠く古都奈良で思わぬ活気を生み出した今回のふるまい豆腐。日本シリーズで優勝した暁には、ビールかけのあと豆腐で一杯、としてもらいたいところだ。

 ふるまい豆腐の様子は、広島ホームテレビで9月30日の朝9時30分から生放送「あっぱれ!熟年ファイターズ」内の特集「奈良はじめて物語」で放映される予定だという。(デイリースポーツ特約記者・鹿谷亜希子)

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