マスターはボクシングの元世界王者 山口圭司さん“因縁の日”にBAR開業
90年代のボクシングシーンを彩った元WBA世界ライトフライ級王者の山口圭司さん(43)をご存じだろうか。栄光と挫折…。引退後は先輩の井岡弘樹ジムのトレーナーを経て、現在は大阪・天満にある「函館BARハメド」のマスター。11月22日にはオープン1周年を迎える。もうひとつの闘いのゴングは鳴ったばかりだ。
JR環状線天満駅の改札から天神橋筋商店街へ向かって、わずか95歩。扉を開け、そこから16段の階段を上ったところに、そのバーはあった。
「雨に濡れないからいいでしょ。最近になって、少しずつ女性のお客さんにも来てもらえるようになりました。景気はぼちぼちですかね」
体重73キロ。少しふっくらした元世界チャンプはおだやかな表情で迎えてくれた。現役時40日間で14キロ減量したときの殺気だったような顔とは別人だ。店内はカウンター12席、テーブル5席。さすがにスパーリングは厳しいが、ゆったりとした空間が広がっている。壁には栄光のチャンピオンベルト。96年5月21日、カルロス・ムリーリョ(パナマ)から奪取したものだ。テーブルにはボクシング雑誌が並べられ、テレビ画面からは自身の世界戦の激闘DVDが常時流されている。
「この後、何が起こるか、分かりますかね?どっちが勝つのかな」。すると、若き日の山口さんがド派手にダウン。おっとりとしたしゃべりと、この天然キャラに店内の空気は一気に和む。
店名はかつて酒豪としてもならした山口さんを象徴するもの。生まれ故郷の函館と同世代で当時のボクシング界にセンセーションを巻き起こしたナジーム・ハメドから取っている。
「動物的なカンとトリッキーな動き。年齢も一緒で誕生日も5日違い。憧れましたね。オレの持ってなかったパンチ力があった。でも、ハメド、いまめっちゃ太ってるらしいです」
長身をいかした天才肌のサウスポー。一部ではハメドに傾倒するあまり、その才能を殺したとも言われたが、スペシャルカクテルのリストには彼の異名の“悪魔王子”が真っ先にあった。
開店記念日の11月22日は20年前、2階級制覇を狙ってWBA世界フライ級王者ホセ・ボニージャ(ベネズエラ)に挑み、壮絶に散った因縁の日。「将来はジム経営も考えてますが、まずはこの店です」。世の移ろいを受け入れながらマスターとして人生の”2階級制覇”を目指す。(デイリースポーツ特約記者・山本智行)