売り込め「地ソースのまち神戸」 神戸ソースの特長とは?
ゴルフ、ジャズ、コーヒー…。150年前に開港した神戸港を入口に数多くの舶来文化が日本に根付いていった。その一つに名を連ねるのがソースだ。歴史を引き継ぐように神戸には大小のソースメーカーが7社存在する。その集積に着目した神戸のソース愛好家たちが「地ソースのまち・神戸」を売り出そうとしている。
このほど神戸市内の鉄板焼店で、神戸の地ソースを味わう食事会が開かれた。主催したのはその名も「神戸ソース学会」。ソース好きなら誰でもなれる会員10人が集まった。一見、ソースをだしにビールを飲む会のようにも見えるが、代表を務める北御門孝さんは「神戸になぜソースが根付き、製造業者が集積していったのかを探ることは、神戸のアイデンティティを知ることにもつながる」といたって真面目だ。
この日のテーマは「神戸のソースと他府県ソースの味わい比較」。神戸のソースメーカー3社5品と広島、大阪、京都の3社3品計8品のソースを、とんぺい焼き、そば焼き、お好み焼きにからめながら食べ比べた。参加者は食べ比べるうちに神戸ソースにはピリッとした辛味があることに気付き、口に含んだ途端「○○ソースちゃう?」とブランド名を言い当てていくようになる。
「神戸のソースの特長はずばりスパイス」と学会の顧問で、ソース専門卸「ユリヤ」(神戸市長田区)店主の中島吉隆さんは解説する。「西洋から入ってきたソースが日本人好みに作り変えられる過程で野菜、調味料、数々の和洋の香辛料が材料に加わっていきました。そして、底に沈殿した香辛料を“どろ”と呼んで、これを表に引っ張り出し、食欲をそそるソースとして商品化したのが神戸のソースメーカーだったのです」
日本におけるソースの歴史をひも解くと、1885年に阪神ソース(神戸市東灘区)が初めてウスターソースを製造・販売し、その後ソースの製造が全国に広がっていったとされる。西洋文化がいち早く定着した神戸でオリバーソースが戦後「とんかつソース」を初めて商品化。また、町工場が集積していた神戸市長田区を中心にソウルフードとして“粉もん”の食文化が定着し、多様なソースが生まれる土壌になったと考えられる。
プリンセスソース(神戸市灘区)は昭和30年ごろに創業。現在は2代目の平山普康さん(46)が製造から販売まで1人で切り盛りする。創業来のレシピを守り抜き、ニンニクとタマネギが利いた辛めの味わいが特徴だ。ステンレス製の釜で炊き上げられたソースは3つのタンクで熟成され、容器に入れられていく。地ソースが脚光を浴びるようになり近年は個人客のリピーターが増加。3年前には多くの客からの要望に応え「極辛」も新たに開発し、好評だという。ただ、プリンセスソースの後継者は現時点ではいない。神戸のソースメーカーの中には同様に後継者のめどが立たないメーカーも多くあるという。
「大切な神戸の地ソース文化を守っていくためにも、まず地元・神戸の人にまずその味を知ってもらい、それから広くアピールしていくことができれば」と北御門さん。今後も地道に神戸ソース学会の活動を続けていくつもりだ。(デイリースポーツ特約記者・山口裕史)