旅館の看板犬エンジェル君 戌年もお客さんを笑顔にするワン!モフモフおもてなし
全国の看板犬ランキングで2連覇を達成し、今秋、世界の看板犬を特集した英航空会社機内誌にも掲載されたワンちゃんが大分県にいる。玖珠(くす)郡九重町の筋湯(すじゆ)温泉にある創業89年の老舗旅館「九重悠々亭」(古賀義敏社長)の宣伝部長・3代目エンジェル君(オス、3歳)だ。来年は戌年ということもあって取材が殺到するなか、話題の看板犬に会いに行ってきた。
大分自動車道・九重ICから車で約30分。九重連山に抱かれた標高1000メートルにある筋湯(すじゆ)温泉は、「筋肉の病などによく効く」といわれ、古くから湯治場として栄えてきた。
夕方、旅館「九重悠々亭」に観光バスが到着すると、入口では女将の古賀圭子さん(72)や旅館スタッフとともに、真っ白でモフモフの毛並みが美しい3代目エンジェル君が、入口ドア横の定位置に座り、観光客を出迎えていた。
バスから降りてくるときは疲れた表情を浮かべていた人たちも、エンジェル君を見つけるやいなや、「きゃー、かわいい!」などと声をあげる。そして、あっという間に大勢の人たちがエンジェル君を取り囲み、カメラを向けるのがいつもの光景だ。
エンジェル君はシベリア原産のサモエドという犬種で、体長は1メートル、体重は29キロ。初めて見た人は、まずその体の大きさに驚くが、「気立てが優しく、人懐こいんですよ」と古賀さん。客がやってくると、巨体を揺らしながらトコトコと近づいてきて愛嬌を振りまく。
「1995年にそれまで飼っていたアイヌ犬が亡くなってね。長女が『サモエドを飼いたい』と言ったのがきっかけで、翌年、初代エンジェル君を飼ったのがそもそもの始まりなんですよ」と古賀さんは話す。
初代は3歳くらいで体重64キロと立派な体つきになり、今の3代目より一回り大きかったという。初代が出演する旅館のCMを作ったところ、「エンジェル君に会いたい」と人気に火がつき、県内だけでなく遠方からの客も増え、同旅館のトレードマークになっていった。
その初代が2008年に11歳で亡くなると、同じサモエドの2代目エンジェル君が看板犬の役割をしっかり継承した。しかし、2代目は2015年、8歳で急逝。その前年から2代目のもとで「見習い」をしていた3代目が引き継ぎ、今に至っている。3頭はそれぞれ別のブリーダーから譲り受けたため、親子、兄弟といった間柄ではないが、「写真撮影のときには動かないなど、『宣伝部長』として接客の心得は代々受け継がれている」(古賀さん)そうだ。
エンジェル君は、毎朝7時半に古賀さんの自宅から「出勤」。午後9時ころまで入口ロビーなどで接客して過ごす。主な仕事は客の出迎え、見送り、記念撮影など。朝の見送りのときには、記念写真を一緒に撮る人たちで順番待ちの長い行列ができる。ときには女性たちから繰り返し顔をくっつけられて、エンジェル君の顔がファンデーションだらけになることも。この時期は雪が降ると喜々として外を走り回るので、体が汚れてしまうこともある。
そのため、月1回、ペット美容室通いを欠かさない。毎月末に、古賀さんが車で約2時間をかけ、大分市内にある美容室まで連れていく。「トリマーさんら3人がかりでシャンプーやトリミングをしてもらうんですよ。お客さまがなでたときに汚かったり毛が抜けて付いたりしてもいけませんから。自慢の白いふわふわの毛並みのお手入れには特に気をつけています」と古賀さん。また、旅館では、食事後の歯磨き、トイレ後のお尻洗いはスタッフの大事な日課だ。
楽天トラベルが毎年実施している「全国の宿 自慢の看板犬ランキング」では2015、16年と2年連続で1位に輝いた。歓喜にわいたが、古賀さんは「他の看板犬の関係者にもこの喜びを知ってほしい」と昨年、同ランキングからの「卒業」を宣言した。
今秋には、イギリスの航空会社「BRITISH AIRWAYS」が発行する機内誌の特集で、世界の看板犬10頭の中の1頭として紹介され、世界的にも注目を浴びた。来年は戌(いぬ)年ということもあり、この年末年始にかけては「地元テレビなどメディア取材が10件以上入っている」(古賀さん)という多忙ぶりだ。
「3代目が若くて元気なこの時期に12年に1度の干支が巡ってきて、これだけ皆さんに注目してもらえるというのは本当にうれしいこと。全国の看板犬ランキング2連覇という立派な勲章を頂いた上、世界的に有名な雑誌にも掲載されて、この子は運を持ってますね(笑)。エンジェル君はお客さまを一瞬で笑顔にしてしまうからすごいです。戌年の来年も、訪れて頂いた方々を幸せにしてほしいです」と古賀さんは話した。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)