コスプレ公務員 惜しまれ「引退」…バナナ姫ルナ、「普通の職員に戻ります」
ご当地ヒロイン「バナナ姫ルナ」として、コスプレ観光PRを続けてきた北九州市観光課職員の井上純子さん(31)が、3月末をもってバナナ姫ルナを引退することになり、3月31日、ラストイベントがJR小倉駅構内で行われた。会場にはバナナ姫ルナの最後の姿を一目見ようと、300人を超えるファンが訪れ、別れを惜しんだ。
バナナ姫ルナは、同市の門司港がバナナのたたき売り発祥の地であることから誕生したキャラクター。井上さんはコスプレが趣味で、ハロウィーン仮装コンテストでグランプリを獲得した経験を持つ。
そんな特技を上司に見込まれ、自らコスプレ姿で市の観光PRを行うことに。2016年7月からバナナ姫ルナとしての活動を始め、これまで市内外でのイベントに30回以上参加し、市のPR動画にも出演。「本気すぎるコスプレ公務員」として、新聞やテレビ、ネットなどメディアでは計100回以上取り上げられ、注目を集めた。ゆるキャラが多い中、市職員自らがコスプレをして市をPRするというスタイルは全国的にも珍しく、「自治体のPRに新たな地平を切り開いた」ともいわれる。
18年1月中旬、「市の認知度向上に一定の成果が得られた」(観光課)ことから、井上さんは引退を発表。観光課在籍が今年度末で丸3年となり、いずれは異動の可能性があることや、小学生3人を育てるママでもあるため、仕事と家庭の両立が課題だったことも引退を決意した理由だった。
桜が満開の31日、JR小倉駅の小倉駅JAM広場で開催された「さよならステージ」に最後のバナナ姫ルナ姿を披露した井上さんは「このキャラクターと出会えて本当によかった」と1年8カ月の活動を振り返った。
原作者のイラストレーター・しいたけさんとのトークや、最後の出演となる新作動画「バナナ姫ルナの関門ノスタルジック海峡絶対絶命」告知編のお披露目も。記念撮影会では100人、特製バッジなどの記念品配布では300人が列を作った。駆けつけた北橋健治市長も「土日も東奔西走し、ひたむきに頑張ってくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。井上さんの活躍は市にとって大きな誇り」とたたえた。
最後の挨拶では、「今の自分の思いをしっかりと伝えたい」からと、紙につづった文章を読み上げた。「(当初は)公務員の私がコスプレをして観光PRするという取り組みは、どんな反響があり、どうなっていくのか先が見えず不安でしたが、新たな挑戦が好きでこの任務を引き受けました」
辛いこともあった。「『仕事でコスプレを楽しんでいる』と言われることもあり、傷ついたり戸惑うことも多かったです。ですが、イベント会場では『会えて嬉しい』『応援している』といった声をたくさん頂き、私はこれでいいんだ、必要とされていると感じ、その思いに精いっぱい応えたいと思うようになりました」
一方で、バナナ姫としての活動は週末が多く、家では手作り衣装のメンテナンスなどもしなければならない。子どもたちと過ごす時間が減り、笑顔で接する心の余裕も失いつつある自分に気付いたという。だが、そんな自分を励ましてくれたのもやはり子どもたちだった。
「『ふつうのママがよかった』と言われることもありました。イベントに来てもママと呼んではいけないと、難しいこともいいました。でも娘がバナナ姫の絵を描いて、『ママだいすき』と書いてくれた時は本当に嬉しかったです。バナナ姫をやめたい、とつぶやいたこともあります。そのときは息子が『そんなこと言ったらダメだよ。北九州市が人気なくなるよ』って怒ってくれました」。
最後に井上さんは「私は今、たくさんの方に応援され、支えて頂いて、本当に幸せ者だと感じています。今後は私がバナナ姫でなくなっても、この貴重な経験を生かし、一職員の井上純子として何ができるかを考え、応援して頂いた方々の期待に精いっぱい応えていきたい」と涙ぐみながら挨拶を締めくくると、ファンからは「ありがとう!」と大きなかけ声。スピーチを聴いて涙を浮かべる人も見られた。
後継者については「今のところ未定」(観光課)とのこと。現在は市の観光情報をインスタグラムで発信する仕事を担当している井上さん。「4月からは普通の公務員に戻ります(笑)。市の知名度向上をどう継続的な誘客に繋げていけるか。この経験を生かして、また何か新たなチャレンジができればと思っています」。涙を拭いて前を見つめた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)