山口の現役アイドル3人 カヌースラローム競技で東京五輪目指し奮闘中(上)
山口県防府市を中心に活動している現役アイドル3人が、カヌースラローム競技で「2020年の東京五輪出場を目指します」と表明し、注目を集めている。ステージで躍動する彼女たちの姿を見聞きした同県カヌー協会が「競技選手として育成したい」と打診。彼女たちも快諾して挑戦することに。いま、アイドル活動とカヌーの練習の両立に奮闘している。彼女たちの姿を(上)(下)で。以下は(上)。
3人は、梶井あやのさん(17)、木藤りんなさん(19)、松山まいさん(18)。現在は、3月25日に新しく結成された7人組のアイドルユニット「きよきさくらのごとく。」のメンバーだ。
この1年、3人は「30POSSE(サンゼロポッセ)」という別ユニットで活躍してきた(同ユニットは4月末で活動休止)。「30POSSE」はロック系の激しいダンスを披露する楽曲が多く、ステージで元気に踊り回る彼女たちの姿が、有望な人材を探していた山口県カヌー協会の吉村卓治強化部長(66)の目にとまった。
カヌースラローム競技は、上流から下流まで全長250~400メートルのコース上に設置された18~25個の各ゲートを通過していき、その所要時間と、ゲートとの接触などによるペナルティの少なさを競う。
1人乗りでは、両端にブレード(水かき)が付いたダブルブレードパドルで漕ぐカヤック(K-1)と、片方だけにブレードがついたシングルブレードパドルを使うカナディアン(C-1)があり、男子C-1といえば、2016年のリオ五輪で銅メダルを獲得した羽根田卓也選手(ミキハウス)が第一線で活躍中だ。
女子のスラロームの種目は、これまで女子K-1だけだったが、東京五輪からは女子C-1が新設される。しかし、吉村さんによると、スラローム女子の競技人口は少なく、全国でも100人足らず。C-1はまだ10人程度しかいないという。
山口県には、阿武川ダムの水を利用した常設の阿武川特設カヌー練習場(萩市)がある。ここは日本で唯一、ダムの直下に設置されたコースで、常に一定の水量が保たれている。1年を通じて気候の影響を受けず安定した練習ができ、安全面にも配慮されたコースで、ナショナルチームも今年から練習の拠点をここに移したほど。
「こんなに恵まれた練習環境は、国内では他にないんです。女子C-1はまだ競技人口が少ないこともあり、意欲のある人がここで練習を積めば、五輪出場も決して夢ではない。カヌーは特にバランス能力や持久力が重要ですが、毎週ステージでダンスパフォーマンスをしている彼女たちなら、きっと習熟も早く、五輪を目指せる選手に育ってくれるのではと思ったのです」(吉村さん)
昨年8月、吉村さんは、彼女たちの所属事務所「K’s Group 山口活性会」に「競技選手として五輪に挑戦してみないか?」と提案。梶井さんは「アイドルは山口にもたくさんいるけれど、“五輪を目指すアイドル”となると、私たちしかいない。すごいチャンスだし、やるからには本気で取り組もうと心に決めました」と振り返る。
ちなみに、中、高を通じて、運動部に所属していたのは、中学のときソフトテニス部だった松山さんだけ。いま高3の梶井さんは、お菓子などを作る家事部に所属。木藤さんは小さいころから水泳が好きだったが、中学時代は美術部だったそうだ。
最初に観せられたのは、急流をもろともせず、水しぶきを浴びながら鮮やかなパドルさばきで川を下る羽根田選手のビデオだった。「正直、無理だなと思いました(苦笑)」(木藤さん)、「幼いころは顔を水につけることも怖くてできなかったので、本当にこんなこと、できるようになるのかなと…」(梶井さん)。そんな不安を抱きつつも、昨年10月から練習を開始。3人とも初心者のため、はじめはプールで、パドルの使い方や漕ぎ方などの基礎的な練習を積んだ。
川に出たのは昨年12月から。以来、週1~2回のペースで、川での水上練習を続けている。
「最初はまっすぐ進みたくても進まず、くるくる回ったりしていました。バランスを崩して真冬の冷たい水の中に落ちたこともありました。でも、練習するたびに、できなかったことが一つずつできるようになり、今では流れに逆らって上流まで漕いでいったり、川を横切ったりもできるようになりました」(梶井さん)。
「先生が見せてくれた手本を真似するのはダンスもカヌーも同じ。その日の課題を設定して、それがクリアできたときがとても楽しいです」(木藤さん)。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)