九州温泉ねこめぐり第1回 別府の鉄輪温泉の”支配にゃん”と”みにゃらい女将”

 温泉天国・九州の各県にある泉質のいいお湯と宿の看板猫を訪ね歩く新連載「九州温泉ねこめぐり」。第1回目は、大分県別府市の鉄輪(かんなわ)温泉にある旅館「かんなわ ゆの香」のかぼす(オス、4歳)、ゆず(メス 1歳)の2匹だ。

 「”支配にゃん”の『かぼにゃん』と、”みにゃらい女将”の『ゆずにゃん』です!」飼い主の女将・葛城さや香さん(43)とご主人で3代目の剛さん(46)が、2匹の写真入り名刺を差し出し、こう紹介してくれた。2匹の名前はともに大分の特産品にちなんでいる。

 大分県別府市の鉄輪温泉は、街のあちらこちらから湯煙が立ちのぼり、噴気、熱湯、熱泥が地面から噴出する「地獄」めぐりで有名だ。バスターミナル横にある旅館「かんなわ ゆの香」は昭和30年代に創業し、2006年にリニューアルオープン。大正ロマンの雰囲気が漂う館内は居心地よく、猫ともよく似合う。大浴場と家族湯があり、ナトリウム・塩化物泉でメタケイ酸が含まれ、「美肌の湯」と評判だ。

 ちなみに葛城さん夫婦はともに、別府の88湯や、九州各県の88湯をめぐった人に与えられる「別府八湯温泉道名人」、「九州八十八湯めぐり泉人」の称号を持つ温泉通でもある。

 かぼすは14年8月のある朝、団体客が帰る際、まぎれて玄関に入ってきた。生後3カ月くらい。誰かに捨てられたのか、どこから来たかは不明だが、毛並みはきれいだった。そのときは取り合わなかったが、かぼすは翌日もやってきた。

 「泊まっていたある常連の女性が、『女将さん、この子はきっと招き猫だよ。縁起がいいね』と言われたのが保護するきっかけでした。すぐに動物病院へ連れていき、宿の隣にある自宅で飼うことにしたんです」。たまたま売店に置いてあった土産物のカボスゴーフレットを見て、かぼすと命名した。

 一方、ゆずとの出会いは17年4月。その日は朝から、どこからともなく子猫の鳴き声がしていた。しかし、旅館の周囲を捜索するも、猫の姿は見つからない。よくよく探すと、どうやら大浴場へいく途中の通路のあたりから聞こえてくる。

 「夜になっても鳴き声はやまず、壁をたたいてみるとガリガリと音がしたので、電動のこぎりを持ってきて壁に穴を開けたんです。そうしたら生後1カ月くらいのこの子(ゆず)がいたんですよ。体重は300グラムくらい。元々古い建物なので、天井などの隙間から野良の親猫が赤ちゃんをくわえて運んでいるうちに落っことしてしまったのかもしれません。里親を探そうかとも思ったのですが、あまりにも可愛くて、これも運命の出会いかなって(笑)」

 ゆずがやってきた当初、かぼすは臆病な性格のため、戸惑い、怖がっていたという。だが半年後、ゆずが避妊手術を受けて家に帰ってきた日のこと。いつもはやんちゃなゆずがしおらしくしているのが気になったのか、かぼすがゆずをペロペロとなめていたわり始めた。以来、2匹は仲良くなり、血の繋がりはないものの、「温厚な兄と活発な妹」(さや香さん)になった。

 さや香さんはSNSやブログで、猫たちの様子を報告。次第に噂が口コミで広まり、猫好きの宿泊客から「会いたい!」とリクエストを受けるようになった。そこで、猫が嫌いな人やアレルギーの人に配慮しながら、時間を決めて(旅館隣の)自宅から旅館のフロントへと連れてくるようになった。

 いまでは、朝食や夕食後の朝8時や夜8時ころ、どちらかが自宅から「出勤」。フロントで宿泊客と触れ合う。かぼすはシャイだが、ゆずは壁から救出したときから全くものおじせず、人なつこい性格。そのため、ゆずが主に接客することが多い。その活躍が認められ、ゆずは楽天トラベルが毎年実施している「2018年版全国の宿 自慢の看板猫ランキング」で3位にも輝いた。

 「かぼすは優しい子なんですよ。私が風邪などで体調が悪くなると、察知して添い寝をしてくれるんです。おかげですぐ元気になります(笑)。オスですけど、いつも陰で見守ってくれる”おばあちゃん”のような存在。ゆずは持ち前の天真らんまんさで私たちをはじめ、温泉を楽しんだお客さんを和ませてくれます。『みにゃらい美人女将』として、これからもますます頑張ってほしいですね」と目を細めた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)※「かんなわ ゆの香」大分県別府市鉄輪御幸4組 電話0120・345・545

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