人はなぜ「怖い話」を求めるのか…子供にも必要、怪談師・糸柳寿昭が指摘

怪談イベントの当日券を求めて並ぶ人たち=東京・浅草の東洋館
子供に対する「怖い話」の必要性を説いた怪談師・糸柳寿昭
怪談社の公演ポスター=東京・浅草の東洋館
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 「怖い話」は昔から夏の風物詩となっている。ヤフー検索の調べによると、今の時期に関連ワードを検索するユーザーが増えるという。実話を語る現代の怪談師を取材した。

 8月初めの日曜夕暮れ。東京・浅草の演芸場「東洋館」には長蛇の列ができていた。若い女性やカップルの姿も目立つ。2007年に大阪で結成され、14年から東京に拠点を移した怪談蒐集(しゅうしゅう)団体「怪談社」の公演だ。怪談師にはファンが付き、会場にはTシャツなどキャラクターグッズが並ぶ。当日券も早々に完売。夏場におけるニーズの高さを再認識した。

 チケットを買えなかった記者は1階エレベーター入口近くのモニターから場内の音声がかすかに漏れているのに気づき、冷房のない無人の暗闇で立ったまま耳を澄ませた。トリを務めた怪談師・糸柳(しやな)寿昭がヤマ場で一気呵成(かせい)にたたみかける迫力に震えた。一夜明け、糸柳に話を聞いた。

 怪談の歴史的背景について、糸柳は「江戸から明治にかけて怪談師の大半は落語家。三遊亭円朝、初代と二代目の柳亭左龍らが伝えた。今はSNSや動画配信といったツールで怖い話をする人が増えたが、共通しているのは人から話を聞いて想像できる人がいるということ」と説明した。

 一方で「怪談の内容も変わってきた。昔は起承転結があったが、今はない。突然やって来る不条理な展開に対し、昔は『意味が分からん』だったのに、今は受け入れられている。そこに社会の乱れが出ているのでは」。糸柳は実感を込めた。

 では、なぜ人は「怖い話」を求めるのか。

 糸柳は「他の国ならば『神様が見ている』という意識がありますが、日本人は基本的に絶対的な神がない。それで幽霊など『人間以外の存在』をどこかで信じている。自分の外にある視線を意識することで自分を認識する。それが根底にあるんじゃないかと思います」と指摘。さらに「私は沖縄出身ですが、沖縄では何かあったら『キジムナーのせい』と言います。ガジュマルの木の精霊と言われてますけど、そうやって霊的なことのせいにすることが、心のより所になっている可能性もある」と付け加えた。

 糸柳は盟友の怪談師・上間月貴と児童養護施設で怪談を語っている。「一番やりごたえありますね。目をキラキラさせて聴いている」。協賛金を募って無料で行う。糸柳は「教育の一環として怖い話を子どもに聞かせるべき。自分以外の者が自分を見ているという意識があることによって、人間は理性的な行動をする。ズルをしない、人をおとしめるようなことをしない。悪いことをしたらどんな目に遭うかと、ビビらせる。そうして正しい人になる」と力説した。

 そして、糸柳は「私は幽霊を信じてません」と言い切った。客観性を保つことで怖い話の切れ味も鋭くなる。「幽霊がいると信じることで救いになる人もいます。信じてなくても、信じざるを得ないという話もあります」。怪談社では8月26日に青森市で「青森怪談催」、10月7日に東京・江戸川区で「闇の怪談者」を開催。怪談は肉声で聴いてこそだ。(デイリースポーツ・北村泰介)

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