実は奥深い「ワタナベのナベ」の世界 たくさんの異体字が存在する理由
阪神ファンとしても知られる俳優の謙、元AKB48の麻友、サブマリン投法で活躍した元ロッテの俊介。3人に共通する名字が「ワタナベ」だ。日本人の中でも特に多い姓だが、その表記は実にさまざま。新聞上は「辺」で統一されている「ナベ」の字は、一説によると100以上存在するという。そんなナベの字を集めた特別展「異体字の世界“ワタナベ”」が京都市の漢字ミュージアムで開催されている。
展示ブースには100以上のナベから厳選された44種類がズラッと並んでいる。中にはとてもナベと読めないようなものから、一見どこが違うのか分からないものまで。なぜこんなにナベの字があるのだろう。山崎信夫副館長に尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「パソコンが普及したからです」
いったい、どういうことなのか?
子供に名前を付ける際に使用できる漢字には制限がある。しかし姓には決まりがない。そのため、先祖が戸籍を登録する際に書いた字が、そのまま使用されてきたという。ところが時代が移って情報化社会を迎え、戸籍謄本など全国の行政で使用されている漢字を統一しようとした際、とある問題が発生した。
各市区町村のデータベースに登録されてたのは、戸籍を提出した人が書いた字体そのもの。同じ漢字のつもりでも、トメ・ハネ・ハライなど書いた人の癖まで反映されており、市区町村によって登録されている漢字が微妙に異なっていたのだ。統一システムを構築するにあたって、これらを全て別の字としてカウントしたことで、さまざまな異体字が生まれたという。
このような経緯もあり“異体字”という表現であっても「姓に使われている漢字に正しいも間違いもない」とのこと。そして同副館長は「パソコンが普及したからこそ、さまざまな異体字の存在が明らかになり、身近なものになった」と補足してくれた。ちなみにワタナベ同様さまざまな表記が存在する「サイトウさん」の「サイ」よりもナベの方が異体字の数は多いそうだ。
ミュージアムの特設コーナーではお気に入りのナベとの記念撮影が可能。また、コーナーのすぐ側に置いてあるノートには「タカハシさん」や「ヒロセさん」など、さまざまな異体字の名字が書き込まれていた。
特別展「異体字の世界“ワタナベ”」は9月2日までだが、他にもさまざまな展示があり、夏休みの自由研究にももってこいだ。10月からは年末恒例「今年の漢字」の大書が展示される。思いのほか奥深い漢字の世界。普段何気なく使っている文字にも、まだまだ新たな発見があるのかもしれない。(デイリースポーツ・伊藤笙子)