「ファイト、一発」リポビタンDのCMが“さわやか路線”で2年…背景にあるもの
「ファイト、一発」のキャッチコピーで知られる大正製薬の栄養ドリンク「リポビタンD」のCMが2016年9月13日からリニューアルされて、ちょうど2年となる。鍛え上げた男性2人組が逆境を克服して絶叫する「危機一髪」シリーズから、さわやかな作風の「Have a Dream」シリーズへの変遷の背景には若者気質(かたぎ)の移り変わりがあった。
リポビタンDは1962年に発売開始。同年始まったテレビCMの初代キャラクターにはプロ野球・巨人のエンディ宮本が起用され、63年から10年間は当時・巨人の王貞治が務めた。73年から俳優・宝田明、75年から俳優・高橋英樹が2年間ずつ単独出演し、77年からアクション系の俳優2人組による危機一髪シリーズがスタート。勝野洋&宮内淳ペアを皮切りに、渡辺裕之、西村和彦、宍戸開といった顔ぶれが加わり、ケイン・コスギ&三浦貴大ペアまで続いた。
2人で断崖絶壁を登りながら、落ちそうになった相棒の手をがっちりつかんで「ファイトォ~、イッパーツ!」と絶叫。ピンチを脱出してリポビタンDをグイッと喉に流し込む。激流のいかだ下りなど大自然と向き合う冒険がテーマだった。
16年9月からサッカー元日本代表の“キング・カズ”こと三浦知良、当時・北海道日本ハムファイターズの大谷翔平が登場し、夢を追う若者を激励する作風に変化。コミュニケーションコンセプトは「Have a Dream」に変わったが、キャッチフレーズの「ファイト、イッパーツ」を残し、かつての「非日常空間での絶叫」ではなく、「日常生活の中での元気な掛け声」に変わっている。
その変化は、協調性を重んじる20代の若者をターゲットにしたことにあった。
同社マーケティング本部では「崖を昇り、汗や筋肉をメインに打ち出していたCMはインパクトがあって多くの人の印象に残っているのですが、かなり究極的なシーンで現実と離れてしまった。特に若い人には『自分たちと違う』というギャップが生まれつつあったのでテイストを変えました」と明かす。さらに「カズさんは『夢をかなえた人』、大谷選手は『これから夢をつかもうとしている人』として若い人の象徴的な存在にした。ブランドへの好意度や購入意向が上がってきている」と手応えを示した。
現在は三浦のみメインキャラクターとして続投し、昨年は人気ユーチューバーのヒカキンとも共演。同社は「個ではなく、みんなと一緒に頑張ることが今の若い人の中ではキーワードになっています」と説明。ヒカキン登場のCMでは、三浦が「ファイト」と言った後、ユーチューバー集団が一斉に「イッパーツ」と合いの手を入れる構成になっていた。
危機一髪シリーズでは、崖を登る前に飲むのではなく、目標を達成した後で飲んでいたのは当時の効能・効果が「肉体疲労時の栄養補給」だったからだが、今年4月から「疲労の回復・予防」という効能が認められ、今なら崖に登る前に飲むシーンもOKとなる。
しかし、時代は逆戻りできない。極限に挑む冒険よりも、堅実で協調性を重んじる若者が主流となった今、あの超人的なCMの世界観は一つの時代の記憶とし封印されていくのかもしれない。(デイリースポーツ・北村泰介)