熱すぎる「貨物線の旅」 ネットでも話題騒然、マニアックさで鉄旅オブザイヤー受賞
通常乗車で走らない貨物線区間を走行する「鉄旅」をご存じだろうか。企画のたびに予約が瞬時に埋まる大ヒット商品で、今年2月には優れた鉄道ツアーを称える「鉄旅オブザイヤー」のグランプリに輝いた。「でも、乗ってしまえば、旅客線と貨物線も同じでは?」。鉄旅素人の記者が仕掛け人に不躾な質問をぶつけると-。
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近鉄グループ傘下の大手旅行会社クラブツーリズムが手がける「都会の貨物線の旅 発売!」。2017年に首都圏で、貨物路線と支線をつないだオリジナルルートを走るツアー初企画したしたところ、定員300人が即座に売り切れ、キャンセル待ちが600人を超えた。以来、企画するたびに完売。9月末現在で15回のツアーを実施し、2000人近くが参加した。参加者も北海道から九州まで全国に渡り、多くがリピーターだ。
仕掛け人は同社JR販売センターに勤務する大塚雅士さん(50)。これまでに数々のヒット企画を生み出してきたアイデアマンだ。
-ヒットの予感はありましたか?
「少しマニアックかなとも思いましたが、売り出し前日はどきどきでした。実は一度、社内の会議で却下されているんです」
-ボツ企画になるところだった
「『一部にしかうけないのでは』と指摘を受けましたが、『やらせてほしい』と熱意だけで通しました。発売日にインターネットのリアルタイム検索でも話題が持ちきりになり、翌日出勤するとすでにキャンセル待ちが300人。満塁ホームランをかっ飛ばした気分でしたね」
-何が魅力なのでしょう。
「まずは普通線から貨物線への分岐。未知の旅が始まり、胸が高鳴る瞬間ですよね」
-乗り心地が違うんでしょうか。
「畳敷きのお座敷列車なので、自由に左右の窓を行き来できます。貨物線を走行中はアナウンスを行いません。企画を十分に楽しんでもらうためです。普通は見ることができない景色や角度を、思う存分堪能できます」
-おすすめポイントは。
「葛飾区高砂の新金貨物線と京成本線の立体交差など楽しめますよ」
-…ひょっとして、大塚さんは…。
「ばれましたか。実は私自身が生粋の鉄道ファン。自分が参加したい企画を作ってみたんです」
同好の士が集まった車内はシャッター音しか聞こえない。9割が男性だ。解説役として大塚さんも添乗する。
ツアーの大団円は、大塚さんの幼少時のエピソード。ご先祖のお墓参りで都内の国道6号線を走るたびに、葛飾区新宿(にいじゅく)にある踏切がいつも開いているので気になっていた。大人になって貨物専用線と分かってから、いつかここに旅客列車を走らせたいとの夢を持っていたという。
「新宿踏切が鉄道ファンとしての私のスタートラインでした。今回実現できた喜びは言葉では表せません」としめくくると、車内は拍手喝采、感動の輪に包まれるという。うーん、いい話だ。
過去に流通していた硬い切符「硬券」など、ツアーでしか手に入らないオリジナルグッズもファン垂涎の一品だ。ここまでいけば、気になるのが今後の展開。「事前に漏れるとボツになるので詳細は伝えられませんが、すでに面白い企画が走り始めています」と大塚さん。「趣味と実益を兼ねて、お客さんと共に全国の貨物線を巡ってみたい」
詳細はインターネットで「クラブツーリズム 貨物線」と検索。(神戸新聞・三宅晃貴)