九州温泉ねこめぐり第5回 大分・由布院温泉「二本の葦束」の警備猫ルル

 九州の数ある温泉街の中でも不動の人気を誇る大分・由布院温泉。“隱れ里の宿”と呼ばれる「おやど 二本の葦束(にほんのあしたば)」には、従業員が全員で世話をし、常連客からも愛されている“警備猫”のルル(オス 推定4歳)がいる。

 大分自動車道・湯布院インターチェンジを降り、秋晴れの青空に映える雄大な由布岳(標高1584メートル)と道沿いのススキを眺めつつ、2分ほど車を走らせると「おやど 二本の葦束」に着く。高速出口からほど近いにもかかわらず、そこは「隠れ里」と言われるとおりの別世界。

 約4500坪の広大な敷地内には、山の斜面に古民家など、趣向を凝らした11棟の離れ(宿泊棟)、8つの貸切風呂が点在し、田舎の集落のようなノスタルジックな景色が広がる。マネジャーの手嶋理江さんは「喧騒を離れ、四季折々の自然のなかで、ゆっくり温泉と地元大分の食材をふんだんに使用したお食事を楽しんでいたければ」と魅力を話す。泉質は単純温泉。由布岳が一望できる大露天風呂や、竹に囲まれた竹林風呂が特に人気だ。

 ルルはそんな自然豊かな宿の敷地内で自由気ままに過ごしている。4年ほど前、前オーナーの知人が保護。もらい手が見つからなければ保健所に連れていかれるかもしれなかったため前オーナーが譲り受けたといい、ここで飼われることになった。

 当時からルルのことを知る従業員の康熙朝(カンヒジョ)さん(42)は「ルルがここにやってきたのは、まだ生まれて間もないころでした。手のひらに乗るくらいの大きさで、ミルクをあげて育てたのを覚えています。動物病院でワクチン接種をし、半年後には去勢手術も済ませました」と振り返る。

 敷地内は探検する場所がたくさんある。ルルが狩りをして、カエルやバッタ、鳥などを自慢げにくわえて持ってくることもあったそう。「『お客様に迷惑をかけるからダメだよ』と注意すると、叱られて反省しているのか、しゅんとなって、いつもより甘えんぼになり、だっこをせがむんですよ(笑)」(康さん)。

 ルルの1日は大体こんな感じだ。夜間は主にフロント棟か事務所内で過ごす。朝5時ころになると、出してくれと当直のスタッフに訴え、外へ出ていく。その後、朝ごはんを食べに戻ってくるが、チェックアウトの午前11時前後にまた外出。昼間は異状がないかどうか、敷地内を巡回パトロール。夕方、チェックインが落ち着いたころ、フロント棟に戻ってくる。もちろん、客が滞在する離れの中に入ることはなく、宿泊者に迷惑をかけたことはない。

 副マネージャーの今田剛之さん(32)は「基本的にルルの気の向くままにさせているので、必ずしも会えるわけではありません。出会えた方はラッキーかも(笑)」。

 今田さんは元々猫アレルギーだったそうだが、気に入られているのか、ルルは今田さんを見つけると撫でてくれと近づき、お尻を向ける。「でもね、みんな可愛がっているので、当直のとき、だっこしてと寄ってきても突き放したりして僕は逆に甘やかさないようにしています(笑)」

 ルルより後に入社したため、敬意を込めて「ルル先輩」と呼んでいるのは、役員秘書の富山勢子さんだ。「実は私、ルルに嫌われてるんです。見かけるとつい体をしつこくこねくり回してしまうので(笑)」。

 手嶋さんは「スタッフはみんなルルが好き。それこそ”猫可愛がり”です。けがしてないか、様子がおかしくないかなど健康管理にも気を配っています」と話す。

 常連客の中には、おやつやおもちゃなどのプレゼントを持ってきてくれる人もいるそう。ルルは宿にとってどんな存在?と尋ねてみると、康さんは「やっぱり家族ですよね。小さいころは臆病で人見知りでしたが、成長した今は、猫好きのお客さんに自分から寄っていくときもあります。警備業務だけでなく、接客の仕方もようやく覚えてきたのかな」。手嶋さんも「私たちスタッフにいつも癒しと元気を与えてくれる存在です」とほほえんだ。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)*「おやど 二本の葦束」大分県由布市由布院町川北918-18 電話0977・84・2664

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