彼女の母親が探偵を雇ってライブで芸を査定…下積み芸人たちに聞いた“悲惨な話”

 経済格差、少子高齢化、非正規雇用、ブラック企業…といったキーワードを背景に、日本社会で若年層の貧困化が指摘されている。さまざまな職種の中から「お笑い芸人」にスポットを当て、「芸人になって体験した悲惨な出来事」というお題を出して彼らの切実な“叫び”を聞いた。

 オフィス北野の元社員が今夏に立ち上げた芸能事務所「ラフィーネプロモーション」が主催する11月のライブ。事前に十数人の体験談を吟味し、記者が選んだ4人がステージに上がった。意外性のある展開や、芸人ゆえの哀しさが表裏一体となった面白さという点で最も印象的だったのは、オオタケハルカというピン芸人だった。

 【オオタケの証言】※本名の「大嶽遥」でライトノベルも書いている芸歴6年の30歳。

 付き合っていた女性の親が厳しい人で、収入がしっかりしないと交際は認めないと言われていた。仕方なく、彼女には「俺は今でこそ売れてないが、才能がめちゃくちゃあってライブでもウケにウケている。売れるのは時間の問題だ」と嘘をついて交際を続けた。

 2年近くたったある日、彼女から突然別れを告げてきた。3日ほどして彼女の母親から手紙が届いた。中には明細書と報告書も入っていた。母親が興信所を使い、探偵がライブを見に来ていたらしい。報告書には探偵から「フリが弱い」といったダメ出しが長々と書かれ、米印付きで「声が大きい」というフォローもあったが、最後に「売れる見込みなし」と締められていた。

 母親からの手紙には「あなたが『すぐに売れる』のなら、これくらいの費用は払ってください」という金額が書いてあり、2年かけて返済することに。今考えると、探偵のチケット代まで僕が負担して、散々ダメ出しされていたことになる。

 「次点」とした3人の証言を続けよう。

 【きみやすの証言】※24歳のピン芸人。

 昨年、コンビで活動していた頃、婚活パーティーの余興にオファーがあった。ギャラはコンビで1万円、会場の飲み食い自由、時間は15分だったが、200人の参加者ほぼ全員がネタを見てくれない地獄の時間。会場で食べる暇もなかった。

 せめてギャラで帰りにうまい飯を食べようと考えていたが、渡されたのは1000円札1枚。「誰もネタ見てなかったから1万は渡せない。電車賃だけ」。自分は川崎、相方は所沢。会場の銀座までの交通費を合わせると2570円。1500円以上の赤字だった。

 【シマダネズミの証言】※コンビ名「シマウマフック」。25歳。

 お金がなく、モヤシをご飯に乗せたものやバイト先のまかないを中心とした食生活。ある時、腹が痛くて近所の病院に行くと、レントゲンで「影がある」と言われ、大学病院を紹介された。2時間の精密検査後、医師から「大変申し上げづらいのですが…」と言われ、「ガン!?」とビビりながら続きを聞くと、「便秘です」。影は信じられないくらいに多い便だったようで、2万円も払って便秘を知らされただけだった。

 【スズメノナミダの証言】※ピン芸人。芸歴5年目の26歳。

 芸人仲間が僕の財布から免許証を抜いて勝手に消費者金融のカードを3枚作り、100万円近くの借金をしていた。返済の遅延連絡で気付き、最終的に彼の家族が返済した。下積み時代は、はみ出してしまう人も多いことを学んだ。売れるまで堅実に深夜バイトは続けていこうと思う。

   ◇  ◇

 貧乏は当たり前、アルバイト生活で糊口をしのぐ芸人の世界。もがきながら、金では買えない経験をしている…と、フォローにはならないかもしれないが、厳しい現実と闘う彼らの目は生きていた。

 (デイリースポーツ・北村泰介)

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