実母の「認知症」と「夫婦の絆」語る 映画「ぼけますから、よろしくお願いします」の信友監督

 認知症になった80代後半の母と、それを介護する90代の父。故郷で暮らす両親の姿を描いた話題のドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」が全国で順次公開中だ。

 両親の一人娘で、この映画の監督でもある信友直子さん(56)は「皆さんも認知症は一番なりたくない病気だと思いますが、高齢化社会を迎えて、これからは、だれにでもなり得る可能性があります。そうなった時、ネガティブにとらえるのではなく、本人も家族も病気を認めた上で、どうやって少しでも楽しく生きていくか。この映画で追体験してもらい、そのことを考える一つのきっかけにしてもらえればと思っています」と語る。

 信友監督はこれまで100本近いドキュメンタリー番組を制作してきたテレビディレクターが本職。広島県呉市で育ち、大学進学を機に上京して約40年になる。時々、故郷に戻り、離れて暮らす両親の姿を「思い出作りにと」にホームビデオで撮影するうちに、母の変化に気付いた。

 「家にリンゴがたくさんあるのにお店で買ってきたり、夜中の3時に石けんがないから今から買いにいくと言い出したり。これはおかしいなと」。2014年、85歳の時にアルツハイマー型認知症の診断を受けた。徐々に症状が進行する中、それでも信友監督はカメラを回し続け、90歳を超えた父が80代後半の母を懸命に介護する姿を記録してきた。

 16年にフジテレビ系「Mr・サンデー」で2週に渡って特集され、大反響を呼んだ。17年にBSフジで続編を放送。その番組を元に追加取材と再編集を行い、今回映画化された。

 テーマは認知症や老老介護といった、今後日本が直面するであろう深刻な問題を扱っているが、映画では老夫婦が一生懸命に生き、そして温かく、ユーモラスに触れ合う姿が多く描かれている。

 若い頃は仕事人間で家庭のことは一切顧みなかった父が必死に家事に向き合う姿や、病気をきっかけに「お父さん、お父さん」と夫に甘えるようになった母の姿も。映画の題名の「ぼけますから、よろしくお願いします」は昨年の正月、母が娘に漏らした言葉だ。

 「ずっと我が家では父の存在が薄かったんですが、母がこうなったことで父のいいところがたくさん見つかった。この年齢でここまで頑張っている人はなかなかいないんじゃないか、意外に妻思いのいい夫だなって思いました。娘の私でさえも入り込めない夫婦の絆のようなものを感じて感動しました。母の認知症で、いろんなことに気づけました」

 映画の中では介護ヘルパーの訪問を受けるシーンもある。「家族だけで何とかしようとするのではなく、プロの介護の方とシェアする大切さももっと知ってもらえれば。例えば入浴にしても、研修を受けているヘルパーさんに入浴させてもらった方が本人も気持ちがいいんです」。

 認知症の家族を客観的な目で見ることも大切だと語る。「絶望的になった母から『どこかに捨ててほしい』『殺してほしい』と言われ、一緒に泣いたこともありました。でも、次の日、母はそんなことを言ったことも覚えてなくて『なんでアンタ、泣いてるの?』と。周りの家族はそういう波についつい翻弄(ほんろう)されてしまいがちなんですけど、私はカメラを回すことで一歩引いた目で母を見ることができた。娘としてずっと接していたら煮詰まってしまって、母のことが嫌いになっていたかもしれません」。

 先行上映した東京の劇場では連日、満員だった。「上映後、皆さんから『気持ちがすっきりした』『また明日から前向きに頑張っていける』という言葉をいただきました。私と同じような立場にある方にとっては、デトックス(体内にたまった有害な毒物を排出させること)の映画だと思って見ていただけたらと思います」。

 現在、母は89歳、父は98歳になった。今年9月、母は脳梗塞を発症して入院、父は毎日病院に通って付き添っている。これからも続く夫婦の絆。老いとは何か、家族とは何かを問いかける作品に仕上がっている。(デイリースポーツ・工藤直樹)

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