ドラマ「大恋愛」に認知症の祖母を6年介護している筆者が共感する理由
戸田恵梨香とムロツヨシが共演するTBS系金曜ドラマ「大恋愛~僕を忘れる君と」が終盤に入り、ますます面白くなってきた。若年性アルツハイマー病におかされた女医と、彼女を支える小説家の、10年間にわたるピュアな恋愛が描かれるという本作。認知症の祖母を6年間介護していた筆者にとっては、病に苦しむ本人と家族のやりとり、介護者や医師との関係性の難しさなどがリアルに描かれており、毎週目を離すことができない。単なるラブストーリーを超えて、介護の「日常のあるあるネタ」に共感を覚える視聴者も多いのではないだろうか。
主人公の女医・北澤尚(戸田恵梨香)は、大学の准教授になる有能な医師との結婚を控えていたが、引っ越し業者のアルバイトで自宅に来た売れない小説家・間宮真司(ムロツヨシ)と出会い、運命の恋に落ちてしまう。2人の関係が深まろうとしていた時、尚が若年性アルツハイマーの前段階とされる認知障害であることが判明して…という物語だ。
尚は恋人である真司の名前を忘れ、ほかの男性の名前を好きと言ってしまうなど、病の進行にあわせて、数々のもの忘れや事件を起こしていく。一方の真司は、「どんな病でも好き」と真っすぐに愛し支え続け、その日々を小説にまとめていくことになるのだが、尚の病状にショックを受けていら立ったり、別れを切り出したりすることもあった。その思い悩みながら支える様子に、筆者は30歳過ぎから介護をしていた祖母との毎日を重ねてしまったのだ。
■医者の提案が想定外を引き起こすことも
例えば、第6、7話では医者の提案が患者や介護者にとってうまくいかず、行き場のない思いがつのる様子がリアルに描かれていた。主治医から「適度なストレスは脳を活性化させる」との理由で、学生の前で講演することになった尚だったが、人前に出た瞬間、突然意識を失い救急搬送されてしまう。主治医からは直接認知症とは関係のない発作だが「病状が進んでしまうことがあります」と言われてしまう。それに真司は納得できず、主治医を怒鳴りつけてしまう。「回復の兆しもあると言ってたのにそれでこれですか、あんたアルツハイマーの権威だろ、どこが権威なんだ」と。
筆者の祖母はここ3カ月ほどで、アルツハイマーがぐっと進んだ。特にトイレの場所、仕方、トイレットペーパーのふき方、オムツの上げ下げがわからない回数が増えたり、週2回ほど徘徊したりするようになった。そこで主治医に相談して薬(安定剤3種類と睡眠剤)を追加してもらったところ、かえって症状が悪化。後日、医者に症状の悪化を伝えると「まだこの病自体が完全に治らず試行錯誤の段階。薬は処方してみないとわからない部分もある」と苦渋の表情だった。
最近は、お箸の持ち方を忘れたり、ジャガイモやピーマンを生で食べたり、電源コードをかじりそうになったり…。トイレや着衣着脱まで全部忘れてしまい、日常生活がほぼ全てできない状態になり、先月末施設へ入所した。少しでも祖母の症状改善を期待した上での結果なので致し方ないのかもしれないのだが、医者の言葉にどうしてもモヤモヤする思いも感じてしまっていた。
■対等な介護ができているのか
そして、第8話では、「対等な介護」について考えさせられるシーンがある。
尚と同じ病で闘病している男性が、主人公に強い好意を持ち、一緒に心中しようと睡眠薬を飲ませて連れ出してしまう場面だ。
闘病している男性は、尚を探しにきた真司に言い放つ。「同じ病気の者しか愛し合えない。真司と尚は対等じゃない。尚は小説の道具に利用されただけ」。
一方、そんなやりとりに尚は「小説を書いてくれることは私の生きがい。私たち夫婦にしかない形。他の誰にもまねできない。対等かどうかなんてどうでもいい」と、お互いを愛し尊重する関係には多様な形があるのだと力説する。
筆者は祖母がアルツハイマーであっても、病ではない時と同じように話したり、出かけたり、ご飯を食べたり、ケンカしたり、笑ったりと、極力対等な関係を保ちたいと思っている。しかし、その間合いや距離感は難しく、ときに祖母を苦しめているのではと感じることがある。
例えば祖母がトイレで尿をする方向を間違えて失敗し、「ああ、もういや、いや」と混乱している時。筆者がごまかそうと「そういう時もあるって。しゃあないねん、年齢やねんから」と言うと、祖母は「あんた、私のことを馬鹿にしてるやろ。私を歳やと思って、負けへんからなあ」と手を私の方向にグーにし、笑いながら返してくる。
「トイレぐらい自分でできへんのか。何回も同じ失敗して」とついイライラし気持ちを抑えているときもあるが、まるで見透かされているかのようだ。「ばあちゃん、何してんねん」と、気軽に笑いながら言える方が「対等」な関係と言えるのかもしれないなと…。
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そのほかのエピソードも、尚と真司の「どんな困難があっても好き」という愛や絆の深さに感情移入してしまうとともに、6年間介護を経験していてもまだまだ考えさせられる部分が多々あった。それはきっとこのドラマが真正面からアルツハイマーと向き合っているからだろう。祖母との介護生活を思い出しながら、残りの放送回を楽しみたいと思う。(神戸新聞特約記者・奥村シンゴ)