「メチャクチャ痛かった…」ステージ4肺がん患者が語るオプジーボ体験
「ノーベル賞」「日本生まれの薬」として話題になっているオプジーボ(一般名ニボルマブ)。免疫に関する研究で、がんの治療薬「オプジーボ」につながったとして京都大・本庶佑特別教授のノーベル賞受賞が決まり、同教授はスウェーデンで現地時間10日の授賞式に出席する。このオプジーボ、国立がん研究所センターによると、2018年10月現在で保険診療として認められているがんの種類は悪性黒色腫など7種類に及ぶ。“がんの特効薬に”と期待が膨らむばかりだが、2年前、実際に投与した肺がん患者に「オプジーボ体験」を聞いた。
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大阪市在住の小西文義さん(仮名)の体に異変が起こったのは16年5月だった。当時62歳、医療機器メーカーの開発を手掛ける小西さんはその日、出張で徳島大学病院を訪れ、打ち合わせを行っていた。仕事中、倦怠(けんたい)感をおぼえた。熱っぽかった。帰阪後、体温計ではかったところ39度を超えていたため、すぐにクリニックに駆け込んだ。「風邪かな…」。だが、もらった抗生物質などの薬を飲んでも熱も引かず、体調はよくならない。しばらくして大阪府内の大きな病院で、血液検査、気管支鏡検査、CT検査とさまざまな検査を受けた。そして宣告されたのが「ステージ4の肺がん」だった。
がんは肺の右上葉が原発巣だったが、それ以外にも肺門縦隔リンパ節、左上葉、膵、脊柱起立筋、左副腎に転移していた。しかも医師から「手術、放射線治療はできない」と聞き、絶望感でいっぱいになった。小西さんは「頭の中が真っ白になった」とそのときの様子を振り返った。家庭では妻と子供3人を養う大黒柱。末っ子はまだ大学生だった。
治す方法は何かあるはずだ-そう思った小西さんは仕事柄出入りのあった岡山大学病院にセカンドオピニオンを求めた。まず担当医師から勧められたのが抗がん剤治療だった。同年7月にシスプラチンという抗がん剤を投与した。めまい、食欲不振、倦怠感、脱毛…の副作用に苦しんだ。その結果は…腫瘍は小さくなるどころか大きくなっていた。次に勧められたのが肺がんにも保険が適用になって間もないオプジーボである。
-最初にオプジーボを投与されたとき、どんな感じでした?
「静脈から点滴注射で1回分量200mgを1時間かけて体に入れました。しばらくすると、体が痛くなって…体といっても全体ではなく、腫瘍があると聞いていた付近がギュッと締め付けられるような痛みでした。もう…メチャクチャ痛かったです。我慢ができなかったほどです。その痛みは7時間たったぐらいで収まりましたが、あとで考えたら、そのとき免疫細胞ががんと戦っていたのかな、と思いました」
(白血球の中のリンパ球の1つであるT細胞は異物を排除する役目を担っている。ただしいつも同じ状態ではなく、アクセルがかかったり、ブレーキがかかったりしている。オプジーボを投与することで、ブレーキを取り除き、T細胞をアクセルがかかった状態にする)
-オプジーボの効果はどうでした?
「11月にCT検査を受けたのですが、転移した膵尾部、脊柱起立筋内の腫瘍は“ほぼ消失”、他の部分も“著しく縮小”か“縮小”と診断されました」
-オプジーボ投与は1度だけ?
「いえ、2年たった今も2~3週間に1度のペースで続けています。岡大(岡山大学病院)を信頼しているので、今も大阪から通っています。腫瘍は6センチほどあったものが1センチ未満に。完全に消えてはいませんが、小さなまま、おとなしくしています」
-副作用は?
「最初に打ったときだけ痛かったのですが、2度目からはありません。最近、類天疱瘡(るいてんぽうそう)にかかったりはしていますが…これが副作用なのかどうかは分かりません」
-高額なオプジーボ、さらに大阪から岡山への通院で経済的な負担は?
「確かに負担は大きいです。ただ、高額医療制度があるのでそれを利用しています。病院代は高いときで月8万円ほど。保険適用でなかったら…年に数千万円もかかると思うと…ゾッとしますね」
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小西さんは、現在も医療メーカーに務めている。肺がんになる前と比べて仕事量をセーブはしているが、ここまで回復できたことに「奇跡だと思っています」と言う。(神戸新聞・佐藤利幸)
◆たにみつ内科・谷光利昭院長「この患者さんのケースは、今まで手の施しようがなかった遠隔転移の肺がんに対しての著効例です。ただし、この薬は限られた7種類のがんにのみ適応とされおり、現時点で効果は2~3割程度とされています。この薬の開発を契機として更なる新薬の開発に期待が持たれています」