「本物のパン」がインテリアライトに!?本場フランスに里帰り
クッペ、クロワッサン、バゲット、バタール…。さまざまなパンをかたどったインテリアライトを何も知らずに目にした人は、一様に「本物?」とつぶやく。それもそのはず、このライトは正真正銘、食べるパンを使って作られているのだ。
制作者である森田優希子さんが営むモリタ製パン所(神戸市)のアトリエを訪ねると、あるベーカリーの店名が入ったパンの運搬箱が重ねられていた。仕入れたパンはまず中身をくり抜き「おいしくいただいて」から乾燥。さらに腐らないようコーティングした後、LEDライトと電源スイッチをつけて完成する。
森田さんは学生時代、パン屋でアルバイトをしていた時に「おいしさだけではなく、見た目の優しさで人を笑顔にする力がある」パンの不思議な力にひかれた。売れ残ったパンを使って創作活動を開始。ある日、パンに透けた陽光の温かさに打たれ、ライトの創作に専念するようになる。卒業後は寝具メーカーで商品デザインを担当していたが、商品化への思いが募り、退職してアトリエを開設。「パンプシェード」の名前で商品化した。
森田さんがこだわったのが素材として使うパンそのものの美しさ。とりわけバゲットやバタールなどのフランスパンは上部に複数あるクープ(割れ目)の均一さと、クープの境目のエッジの立ち方がライトとしての出来映えを左右するという。多くのベーカリーが集まるパンの街・神戸の店を回り、理想のパンを見つけた。
そのベーカリーの店長は3年前、直談判にやってきた森田さんの依頼に驚いたが、“安定供給”を約束。仕入れの日は、焼きあがったパンの中から「見た目がきれいなものを厳選している」という。「おいしいだけでなくきれいなパンを作ることを体で覚え込まされた」という店長はつい先日「我ながらきれいにできた」バタールを森田さんに渡し、自分用にライトの製作を依頼したという。
森田さんは昨年、「パンプシェード」をフランスで開かれたインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展。現在、フランスをはじめ6カ国のインテリアショップなどで販売されるまでになっている。「すごくきれいなパンと本場でも驚かれる。パンに慣れ親しんだフランス人の笑顔を見てあらためてパンの持つ力を感じている」。これからも「パンプシェード」づくりに励む。(デイリースポーツ特約記者・山口裕史)