東名あおり 懲役18年は「求刑の八掛け」で妥当 危険運転適用は画期的 小川泰平氏が指摘
神奈川県大井町の東名高速道路で昨年6月、あおり運転を受けて停車させられた夫婦が後続の大型トラックに追突され死亡した事故の裁判員裁判で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた石橋和歩被告(26)に、同罪を適用して懲役18年(求刑懲役23年)の判決が言い渡されたことを受け、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は14日、デイリースポーツの取材に対し、この判決について見解を語った。
今回のポイントは、争点だった「危険運転致死傷罪の適用」が裁判官によって認められたことにある。
小川氏は「感情論でいけば、求刑通りに“懲役23年”になっても当たり前です。2人も亡くなっているのだから、もっと厳しくしてもいいと。被害者の遺族の方たちが加害者に対して厳罰を求められるのは、ごもっともだと思います。そのことについて反論のしようはない。ただ、裁判官は感情論で判断するものではなく、一つ一つを法に照らして考えていくと、危険運転致死傷罪の適用は難しいかもしれないと、判決前には思う部分もありました」と明かした。
つまり、2人が亡くなった追突事故の際、石橋被告が運転席から離れていたことが適用の可否を微妙にさせていたのだ。エンジンをかけていつでも発進できる状態であれば、運転席に座っているだけでも走っているとみなされる。これを「0キロ走行」というが、事故当時、同被告は座っていなかった。
小川氏は「石橋被告が運転席から離れていたことが気になりました。キーは抜かずにエンジンはかけたままでも、運転席から離れていたということは、背後からトラックに追突された際、本人にも相当な危険があり、石橋被告が逆にはねられた可能性もあった。外にいたわけですから、石橋被告は運転を放棄した状態だった」と分析。危険運転致死傷罪の適用が困難になる可能性もあるとみていた。
ところが今回は適用された。決め手は、停車前に石橋被告が「4度の妨害運転」をしていたこと。横浜地裁はその行為によって追突事故による家族の死傷が現実化したという因果関係を認定した。
一方、危険運転致死傷罪が適用されない場合に備え、検察側が監禁罪致死傷罪でも起訴していたことについて、小川氏は「泥棒の場合も、被害品が出ずに窃盗罪で立件されない場合に備えて、住居侵入も付けて起訴される」と例を挙げて説明し、「“監禁”について弁護側は時間が短いと主張していたが、トラックに追突されていなければ、その時間は続いていた。つまり“監禁継続中”に事故に遭った」と指摘した。
ただ、危険運転の罪が認定されたため、予備的訴因として検察側が起訴していた監禁致死傷罪の成否については言及されなかった。
求刑と判決に「5年」の差があったことについて、小川氏は「検察側はアピールも含めて、23年は思い切った求刑だと思いました。遺族が取材を受けてテレビにも出たことで世論の支持があったことも大きいです」と指摘。さらに「判決では裁判長が高速道路上で停車させた速度ゼロの状態が、同罪の構成要件の『重大な危険を生じさせる速度』とするのは、解釈上無理があるとの判断も示しながらも、危険運転の罪を認定したのは画期的と言える。また18年という判決は、よく『求刑の八掛け』と言われますが、妥当な判決だと思います」と解説した。