その痛み、放っておいて大丈夫!?胸痛でなくも心筋梗塞の痛みかも
日本人の死因の第1位は悪性腫瘍だが、第2位は心筋梗塞。実は心筋梗塞には予兆ともいえる「放散痛」という症状が起こることがあるのだが、それを見過ごして突然死してしまうこともあるという。脳卒中・循環器病が専門で、神経救急にも詳しい大槻俊輔医師に話を聞いた。
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-心筋梗塞は、どんな時に起こるのでしょうか。
「心臓病による発作は、トイレに行った時や仕事をしている時など、何かきっかけになる行動を起こした時に起こることが多い。必ずしも、いつも突然発症して死亡するとは限らず『放散痛』という症状が加わることもよくあります」
-しかし、心筋梗塞というと、急に強烈な胸の痛みを感じるのではないでしょうか。
「チクッとか、刺すような鋭い痛みではなく、胸のちょうど真ん中あたりになんとも言いようのない不快な感じがする、あるいは、胸のあたりをぎゅーっと締め付けられるような感じがすると訴える方が多い。冷や汗が出て気が遠くなるなどの症状を伴うこともあります」
-では「放散痛」とは何なのでしょうか。
「心臓の神経は脳とつながっています。心臓の痛みは脳が感じているのですが、その痛みを感じる回路は、肩やお腹にもつながっているのです。そのため、本当は心筋梗塞が起こっているのですが、左肩の肩こりや痛みを感じる、背中が痛む、お腹が痛む、のどが詰まるような感じがするなど、胸から20~30センチのあたりに症状が出ることがよくある。そうした症状を『放散痛』というのです」
「ただ、胸の痛みや放散痛を感じているからといって、必ずしも心筋梗塞とは限らない。肺炎など肺の病気のこともあるし、エコノミークラス症候群で肺血栓を起こしていることもあります。お酒の飲み過ぎや逆流性食道炎、胃潰瘍でも同じような症状をきたすことがある。医師は、丁寧に問診して診察します」
-胸の痛みや放散痛を感じたら、どうしたらいいのでしょうか。
「まず、その症状が『急に起きたかどうか』が問題です。どうもただことではない、今まで経験したことがないような激烈な胸痛や頭痛を感じる、意識が遠のく、急に息苦しくなった場合には、迷わず救急車を呼びましょう。頭痛というのは、脳卒中の可能性もあるからです。放散痛は、左肩やのど、みぞおち、背中の痛みが比較的短時間のうちに広がります。しかし、真夜中は救急車を呼ぶのをためらうこともあるでしょう。そんな時は、#7119(救急安心センター)に電話してください。看護師か医療知識のある人が、電話口に出て、相談に乗ってくれます」
-まずは、冷静に判断、対処することが大事ですね
「多くの人は、日頃『私は病気ではない』と思って生きている。まさか心筋梗塞だとは思わず、翌日のんびり歩いて病院に来られる方もいます。まれに胸痛のない心筋梗塞もありますが、非常に重大な病気です」
「胸痛や放散痛の経験者は、自分の体に何が起こっているのか分かると思います。問題は、初めて経験する人です。『あれ、なんだかおかしい』『どうもただことではない』と思っても、そのままやり過ごしてしまうことがある。心筋梗塞を実際に経験した患者さんは、『本当に死にそうな気がした』と答えます。もし、そんなふうに感じたのであれば、安静にして休み、何時であろうと救急車を呼んだほうがいい。救急車を呼ぶ場合は、まず家の鍵を開け、目立つように明かりをつけます。固定電話から119番に電話すれば、住所を言えなくても逆探知してくれます」
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心筋梗塞などの心臓病の場合、激しい胸痛を感じるというのは容易に想像できる。しかし、胸痛ではなく、他の部位に、別の病気を思わせる症状が出ることもある。何かいつもと違う、しかし救急車を呼ぶのはためらわれる。そんな時は、#7119(救急安心センター)に電話して相談してみよう。(神戸新聞特約記者・渡辺陽)
◆大槻俊輔(おおつきとしほ)近畿大学医学部附属病院脳卒中センター教授。神戸大学医学部卒業初期研修後、大阪大学医学部、米国国立衛生研究所、国立循環器病センター、広島大学病院をへて現職。脳卒中やてんかんなどの神経救急を専門。
◆渡辺陽(わたなべ・あきら)大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。フェースブック(https://www.facebook.com/writer.youwatanabe)