改正出入国管理法で懸念される外国人犯罪~暗躍するブローカーの実態とは…小川泰平氏が指摘
外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が成立した。来年4月の導入に向けて準備は進められるが、クリアすべき多くの課題が山積されている。犯罪ジャーナリストの小川泰平氏はデイリースポーツの取材に対し、神奈川県警国際捜査課の元刑事として経験した「外国人と犯罪」という視点から、問題点を指摘した。
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法の成立によって、今後、“仕事”と称して日本に来る外国人が増え、そこに犯罪者が紛れ込む可能性が非常に高くなることが懸念される。
当初は正規に仕事をするため日本に来ても、過酷な労働や低賃金、さらには職場でのパワハラ、外国人の同僚からのいじめなど、来日前に考えていたこととは違うことが起きてくる。そこから逃げる労働者や自殺する人もいる一方、犯罪に走る人間が出てくるのだ。
話は20年前にさかのぼるが、1998年、私は神奈川県警察本部に国際捜査課が発足した時のメンバーの1人であった。中国人がコンテナに乗って日本に密入国してくる現場にも立ち会った。通報を受け、機動隊も含めて警察官50人くらいでふ頭に行って、コンテナを開けたら数人が既に亡くなっていたこともあった。真夏の8月、生き残った者も体力がなくて逃げられない。やせ細ってゾンビのような顔になっていた。
彼らは当時、300万円くらいを中国のブローカーに払っていた。日本で1年働くと福建省で家が建つと言われて。だが、肉体労働をしたからといって家は建たない。そこに目を付けたのが中国の犯罪組織「蛇頭」だ。最初はカード詐欺や泥棒が逃げる時の運転手など簡単なことをやらせ、やがて犯罪ランクが上がっていく。何年か日本で稼いで帰国した者は本当に家を建てた者もいる。もともとは留学生だったり、コンテナで来た者だった。
命がけで船に乗った時代と違って、今は飛行機で来る。サッカーの日韓W杯が開催された2002年には日本への入国審査が緩和されて外国人が増えたが、この年は被害届の数を示す「刑法犯認知件数」が285万3739件もあった。日本人も含む数字だが、昨年は91万5042件だから約3倍である。W杯時に来日し、そのまま居ついて逮捕された者は「日本はいいところだ。道路に金庫が置いている」と言った。“道路の金庫”とは自動販売機のこと。犯罪者にとって日本ほどいい国はないという。
法改正に話を戻すと、「特定技能1号」として「生活に支障のない会話ができる、一定の知識や技能を持っている者」が対象になっている。日本で法整備をきちんとやって、審査を厳正にするといっても、多岐にわたる書類が必要になることによって喜ぶのはブローカーである。
つまり、来日時に高い金をブローカーに払い、語学ができると証明できる学歴や資格、知識や技能を要する職歴、親の年収や銀行の預金残高など、偽造または虚偽の書類を作ってもらうのだ。それが本物かどうかはなかなか見破られない。
偽装留学生にもビザは発給されている。かつて多かった中国や韓国ではない、新興国の留学生が今は急増しており、ブローカーへの手数料や日本語学校の学費などで大金を払っているため、アルバイトだけでは返せず、同胞の犯罪組織に入る者がいる。薬物事案などで、ある特定の国の逮捕者が増えている。
「外国人は日本人がやりたがらない仕事をやってくれる」「雇用が増えるからいい」という建前で法改正がなされたわけだが、「犯罪」という観点において、そこには大きな問題点が潜んでいることを認識してほしい。(犯罪ジャーナリスト)