介護に備える第一歩~介護保険の利用方法とは~
「介護は実子で」と言われることも増えてきた昨今。一人っ子のAさんにとって、両親の介護をすべきなのは自分であると自覚はあるものの、実際のところ仕事は忙しく、子育てもまだまだ手が必要で、とても介護の時間を十分に持てそうにはありません。共働きの配偶者も同様に忙しそうです。もとより家計は協力して成り立っているため、どちらか一方が近い将来に離職して専業で家事と介護と育児を担うという策には大きな不安があります。似たような状況に悩んでいらっしゃる方は、超高齢社会の現代では多いのではないかと思います。
家族の介護のために仕事を辞める「介護離職」は近年の大きな社会問題です。もし夫婦のどちらかが介護のために離職することを選んだ場合、企業や社会にとっては労働力の損失となると同時に、当然家計にとっても損失は大きなものです。介護離職を防止し、介護が必要な家族も含めて家族みんなが安心できる生活のためにも、介護保険をうまく利用することが大切です。
とはいえ、介護は多くの人にとってそう何度も経験するものではありません。いざ親の介護が必要な時になって「何をどうしていいのかわからない」と戸惑う方も多いものです。まずは、知っていると便利で安心な介護保険の利用手続きについて理解しましょう。
介護保険は、40歳になると自動的に第2号被保険者、65歳からは第1号被保険者になり保険料を納めています。第2号被保険者は指定された難病になった場合などに利用できます。一方、第1号被保険者では何らかの介護や支援が必要な状態であれば利用することが可能です。第2号被保険者として利用したい場合は、地域包括支援センターや役場に確認してみましょう。ここでは、第1号被保険者の利用を想定して説明します。
65歳以上の方の場合は、まず65歳になった時点で「介護保険被保険者証」が手元に届いているはずです。しかし、医療保険とは異なり、保険証が手元にあるからといってすぐに使えるものではありません。介護保険被保険者証をよく見ると、番号や氏名、住所の欄以外の、例えば区分や期限の欄は空欄になっているはずです。介護保険で支援や介護のサービスを利用するためには「要支援・要介護認定」により要支援1または2、要介護1~5または非該当の認定を受けなければなりませんが、最初に自動的に届いた介護保険者証にはそれらの記入がありません。
もし、以前に介護保険を使ったことがあり要介護度や期間の欄に記入があったとしても、期限切れの場合は再度認定をしてもらう必要があります。
要支援・要介護認定を受けるための、ご本人や家族が行うおおまかな申請手順は以下の通りです。
◇ ◇
【1】 役場等で要介護認定申請書の用紙をもらい、必要事項を記入し、介護保険被保険者証と共に窓口に提出する
【2】 医療機関を受診し、主治医に意見書を書いてもらう
【3】 認定調査を受ける
【4】 認定結果が記入された新しい保険証が届く
◇ ◇
認定申請書の提出から新しい保険証が届くまでの期間はおよそ1カ月です。
認定申請は、ご本人や家族が行えます。また、地域包括支援センターでも要介護認定の申し込みについてサポートしているので、遠方にお住まいの両親の介護保険利用を検討したい等の場合は、ご高齢者本人の居住地にある地域包括支援センターへご相談ください。
普段医療機関にかかっていない場合や、かかりつけの主治医では意見書が作成できない場合で、どこの医療機関に行けばよいのかわからない場合も地域包括支援センターへ相談してみましょう。
介護認定結果が出れば、ケアマネジャーを決めて必要なサービスを検討します。要支援の場合は地域包括支援センターに介護保険を利用した支援の希望を伝えましょう。要介護の場合は、ご希望の居宅介護支援事業所に相談しケアマネジャーを依頼しますが、どこに事業所があるかわからない場合なども、地域包括支援センターに相談すると教えてもらえます。
なお、以前は「非該当」になった場合は介護保険でのサービスの利用はできませんが、ここ数年で介護予防の取り組みが導入され、「非該当」の方でも、地域の介護予防の取り組みに参加できるようになっています。サービス内容はお住まいの地域により異なりますので、このような相談も地域包括支援センターに問い合わせをしてみましょう。
冒頭のAさんは、その後、両親の介護保険の利用手続きを進めました。地域包括支援センターにも確認をし、申請書は市役所の出張所窓口で提出できました。主治医にはあらかじめ電話で意見書を書いてもらえるか確認し、認定調査の日程にもタイミングを合わせて休暇をとり、両親の健康状態も知ることができたようです。そして、その後はケアマネジャーさんにいろいろ相談しながら、Aさんの両親と家族にとって、これから先の将来をどう過ごしていきたいか一緒に考えているそうです。これからまだまだ家族の状態は変化しそうですが、介護保険のサービスを知るとともに、相談できる人や窓口を把握できたこともAさんにとっては大きな安心につながりました。(森のすず社会福祉士事務所・社会福祉士 森保純子)