“人工知能刑事”誕生!今年から本格化するAI捜査の実態とは…小川泰平氏が解説
警察庁は2019年度から人工知能(AI)を活用した3項目の実証実験に取り組み、より高度な捜査にいかせるシステムを開発して全国の警察への導入を目指している。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は13日、デイリースポーツの取材に対し、注目されるAI捜査の実態や将来的な見通しについて解説した。
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昨年10月28日未明、ハロウィーンで沸く東京・渋谷センター街で若者たちが通りかかった軽トラックを取り囲み、荷台で飛び跳ねるなどして傷つけたうえに横転させるという悪質な事件が起きた。テレビでもその映像が何度も放送され、多くの人がその狼藉(ろうぜき)ぶりに驚き、怒りを覚えたことだろう。
警視庁は「クレイジー・ハロウィン事件」と名付けて摘発に全力を挙げ、防犯カメラ250台分を解析して容疑者を割り出し、4人を逮捕。容疑者は会社員や美容師、建設作業員のいずれも20代男性だった。さらに欧州系の外国人を含む11人を書類送検。社会問題化する渋谷でのハロウィン騒ぎに警鐘を鳴らす格好となった。
あの対応については“見せしめ”と指摘されているが、外国人も含んでいるということで、今年のラグビーW杯や来年の東京五輪に向け、日本人だけではなく、外国人にも「日本ではこんなことしているとすぐ捕まるんだよ」「大騒ぎしないでね」という警告の意味も含まれていると、捜査関係者の話である。
防犯カメラの画像から雑踏の中で不審者の顔を割り出した同事件は、AI捜査につながるサンプル事案でもある。この「不審者・不審物の抽出」に加え、「自動車の車種判別」や「疑わしい取引の分析」という3項目の実証実験が今後も行われていく。
「不審者の抽出」でいうと、例えば、店舗内で客の動きをAIが分析し、万引き犯人を見分ける。顔認証システムによって、顔が見えない状況や、後ろ姿だけであっても、家族や友人であれば、その姿や歩き方で識別できるように、歩容(歩く様子)にはその人の個性が備わっている。
「車種判別」から犯人を割り出すこともできる。車番(ナンバー)認証と同時に車種や色、年式、さらには運転手の顔も割り出せる。AIにはあらかじめ車両のデータを大量に学習させて記憶させておく。「疑わしい取引」とはマネーロンダリング(資金洗浄)などの金融犯罪。AIに過去の摘発事例を学習させ、取引現場での犯罪行為を“捜査”する。
刑事は目と足と情報で活動していたが、これからはAIが占めることも多くなる。警察の捜査は既に防犯カメラに頼ることが多々あるが、それにも増して画像解析能力があがってくれば、車のナンバーや不審人物の顔が浮き出てくる。韓国では既に人工知能捜査官が活躍している。日本でも近い将来“AI刑事”が誕生することになるだろう。
警視庁をはじめ、神奈川県警、福岡県警では今年から本格的にAI捜査を始める準備もしている。3月に東京ビッグサイトで開催される「セキュリティショー」では人工知能搭載の防犯カメラなどが展示され、その性能が検証される。AI捜査の現実化に向けて準備は進められている。(犯罪ジャーナリスト)