九州温泉ねこめぐり第8回 熊本・平山温泉「湯処 風月」の“ねこの番頭”たち
九州自動車道・南関ICから車で東へ約30分。熊本県山鹿市の平山温泉にある「湯処 風月」では、三毛のにゃあ(9歳、メス)、キジトラのチビタン(3歳、メス)、ハチワレのはな(3歳、メス)と娘のこはく(1歳半、メス)の4匹が「ねこの番頭さん」を務め、温泉利用客を癒している。
「湯処 風月」は2006年10月にオープン。源泉掛け流しの貸し切り露天風呂15室を備える。泉質はアルカリ性単純硫黄泉。平山温泉のお湯は、pH値(液体の酸性、中性、アルカリ性を示す数値。7が中性で、それより小さいと酸性、大きいとアルカリ性となる)10前後とアルカリ性が強いのが特長で、同施設ではpH値9.83。店長の毛利彩乃さん(42)は、「ぬるっとしてとろみがあり、肌がすべすべになる美肌の湯です。うちではお客様が利用するごとにお湯を毎回入れ替えて清掃しているので、いつでも一番風呂の清潔さと爽快感を楽しむことができます」と話す。
にゃあ、チビタン、はなの3匹は、時期は違うが、いずれも毛利さんが敷地内にどこからか現れたところを保護し、ここで飼うようになったねこたちだ。近所には野良ねこが少なからずおり、いずれも敷地内に迷い込んできたようだ。
にゃあは2010年秋ころ、水をくむ井戸ポンプが壊れ、直ったときに現れたので「この子は井戸の神様かもしれん。大切にせんと」と飼うようになった。チビタンは熊本地震が起きた2週間後にやってきた。生後1カ月で、まだミルクをあげなければならない時期。どうしたものかと思っていたら、にゃあが大活躍した。
「にゃあちゃんは、チビタンに会うとすぐ、血の繋がりもないのに、自分のおっぱいをあげはじめたんです。身寄りのないチビタンをほおっておけなかったのでしょう」(毛利さん)
その年の秋、ひょっこり現れて居ついたのがハチワレのはなだ。ハチワレとは、顔の毛の色が額から鼻にかけて「八の字」のように2色に分かれていることを指す。はなは、翌年のゴールデンウィークには「くろちゃん」と呼んでいた真っ黒のオスの野良ねことの間に3匹の赤ちゃんを近所で産んだ。
ところが3日後、どしゃぶりの雨が降り、母子ともにずぶ濡れに。「するとはなちゃんは、赤ちゃんを1匹ずつ口にくわえ、受付の建物の中まで3匹とも運んできたんです。ここなら安全と思ったんでしょう」
その1匹がこはくだ。残りの2匹はお客にもらわれていった。ちなみに父ねこのくろは、2カ月後のある日、近くの山に仕掛けられていたイノシシのわなにかかり、前足に大けがを負った状態で敷地内に現れた。毛利さんはすぐに捕まえて病院へ連れていき、前足を切断するなど手を尽くして治療したが、結局、命を救うことはできなかった。「亡くなったくろちゃんのためにも、はなとこはくを幸せにしなければ」と毛利さんは心に決めた。
日中、にゃあとチビタンは、敷地内をパトロールしていることが多いが、はなとこはく親子は受付の建物内かケージの中で過ごしている。カウンターの上に敷かれたタオルの上で寝ていることもしばしばだ。毛利さんは、4匹の首にそれぞれ別の音の鈴をつけ、どのねこがどこにいるか、すぐに分かるようにしている。こはくだけは外に出ないため、1日1回、リードをつけて周囲を散歩するのが日課だ。
「ねこを撫でて帰ったらいいことがあったけん、また撫でにきた」という男性客や、温泉に入った後、1時間以上もねこたちと遊んで帰る女性客らも。4匹いるからか、「ねこカフェに行かんでいいから嬉しいわ」と喜ばれることもある。お客の間でいま一番人気なのはこはく。人見知りせず、長毛で、撫でるとふわふわの手触りなのがその秘密だ。
開店当初から働く女性スタッフのひとり、浦田由喜路さんは「私、昔からねこはひっかくイメージがあり、さかりのときに鳴く声も怖くて、受けつけなかったんですよ。でも、にゃあちゃんは私が抱っこしてもおとなしくしているし、ごはん食べるときは『ごーはんっ』って鳴いてねだるんです(笑)。そんな姿が愛らしくて。いまはねこが好きになり、ねこたちと一緒に仕事できるので毎日楽しいです」と顔をほころばせる。浦田さんのようなスタッフは他にもいて、4匹はお客のみならずスタッフたちも笑顔にしている。
ここから約6キロ、車で15分ほど走れば、今年のNHK大河ドラマ「いだてん」の主人公・金栗四三が生まれ育った生家や、ドラマのミュージアムがある。温泉とねこと大河ドラマゆかりの地めぐりの旅もいいかも。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)*「湯処 風月」熊本県山鹿市平山5955 電話0968・43・0268 営業時間は平日午前9時~深夜1時、土日祝午前8時~深夜1時。