「匠の技」が外国人観光客の心つかむ…インバウンド客に人気の大工道具ミュージアム
兵庫・神戸の「竹中大工道具館」は日本で唯一、大工道具を展示するミュージアム。近年、同館を訪れる外国人観光客が増えています。大手旅行サイトでも外国人観光客の方たちの高評価が見られますが、それ以上に口コミなどによって訪れている人たちが多いといいます。日本人の大工が、真摯に仕事に向かってきた確かな技とその心が、国を超えて多くの人を惹きつけています。
新幹線が発着する「新神戸駅」から徒歩約3分の場所にある同館は、日本建築の伝統技術と現代の建築技術を融合して作られています。1984年に開館し、2014年に今の場所に移転してきました。昨年は約7万2000の総来館者中、約4300人が外国人観光客でした。「2017年度の外国人の方の観光客は約2600人でしたから約1.5倍増です。2016年から2017年にかけてもそのくらい増えているので、本年度は5000人はいくと思います」と副館長の西村章さん。
外国人観光客は、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアからの訪問客が約6割。残りはアジア圏からだそうです。また外国人は一人で訪れる人はもちろんカップルや友人同士で訪れる人たちもいれば、家族で来る方も。「もともとここは竹中工務店の社主の私邸があった場所。私どもにとってゆかりのある地で、日本の大工が長きに渡り研鑽を極めた技と精神を後世に伝えていきたいと思っています。当館は選び抜かれた約1000点の展示を行っていますが、大工道具をこれだけの規模で展示する博物館は珍しく『世界のどこにもない博物館だ』と外国人観光客の方に言われたことも」と西村さん。
展示室は大工道具の歴史や変遷、種類や使用法などを紹介する「歴史の旅へ」「道具と手仕事」「世界を巡る」、次に“用の美”としての道具の精緻さを鑑賞する「名工の輝き」「和の伝統美」、そして棟梁の仕事を理解する「棟梁に学ぶ」、最後に日本建築と木の関わりを感じ取る「木を生かす」の7つのコーナーに分かれています。「全てのコーナーに映像展示やハンズオンコーナーがあります。また無料で英語、中国語、韓国語の音声ガイドを受付で貸し出しており、とても分かりやすいと好評です」。イラストや床に描かれた設計図、初心者でも挑戦できる木工教室など、あらゆる国籍、年齢の人が五感で楽しめる工夫が随所にちりばめられています。
特に「棟梁に学ぶ」コーナーの、地下2階から1階までを貫く「唐招提寺金堂(とうしょうだいじこんどう)」の柱とその屋根部分を実物大で再現した模型が人気なのだそう。金物を使用しない木組みの技術の高さに、外国人は日本人の器用さ、精神の細やかさに思いを馳せ、“美は細部に宿る”と魅了されます。この木組みを手に取れるサイズで再現した「継手仕口(つぎてしくち)」の模型を分解して遊べる展示もあり、なかなか難解です。「でも外国の方たちも果敢にチャレンジされていますよ」。
他には、複雑な数寄屋造りの構造を透視するかのように楽しめる「茶室スケルトン模型」、“紙のように薄い”鉋での削りくずを見て、触って、香りを楽しむ「木を生かす」コーナーも喜ばれるスポットですが、「何といっても人気は木工のワークショップ。特に半時間ほどで完成し、本国へも持ち帰れる『マイ箸』を作るクラスが好評です。初心者のお子さんにも丁寧に指導します」とのこと。さすが宮大工のいるミュージアムです!
ご自身も英語で、外国人観光客の方たちともお話される西村さんは、「必ずしも旅行サイトなどを通じて訪れる外国人観光客が多いとは思わない」と言います。むしろ、一度訪れた人の口コミやSNSなどを見て、人と人のつながりから興味や関心を持った人々が訪れてきてくれているように感じるとのこと。「当館の収集展示する大工道具や匠の技を通じて、そこに込められた『ものづくりのスピリット』が国や言葉を超えて伝わっていくようで、嬉しいですね」(神戸新聞特約記者・山本 明)