【京大・安部教授コラム】2000年前の電池で“金メダル”ができた!時短したけど…
「科学よもやま話=2=」
最近、異世界ファンタジーの小説が流行っていますが、大体の設定としては電気がない世界になっています。異世界ファンタジーなので、光や火などは魔法でなんとかするということが多いですね。異世界転生してみたいです。さて、現実の世界に戻って、時間を電気がない時代に戻しましょう。
発電所ができたのが1881年。エジソンが最初の発電所を作っています。さらに時間を少しさかのぼると、イタリアの物理学者であったボルタが最初の電池を発明した1800年になります。今回は、このボルタさんの話ではなく、さらに昔に戻ります。
いまから2000年前くらいとされていますが、電池らしきものが、いまのイラクの都市であるバグダッドで発掘されています。場所にちなんで、バグダッド電池と呼ばれています。これが最初の電池であるかどうかはさておき、私が助手だったころに、某テレビ局からバグダッド電池を再現してほしいという依頼がボスであった教授の先生のところにありました。
電池の作り自体は簡単で、銅をプラス極、鉄をマイナス極にして、そこに“お酢”を使って電池を再現しました。電圧は0・5Vくらいだったと思います。ちなみに乾電池は1・5Vです。学生さんたちと協力して、電池を何個か作ってみたのですが、それなりに電池として働くことがわかりました。
さて、ここからが問題なのですが、テレビ局から、この2000年前に作られたかもしれない電池を使って、亜鉛で作られたメダルを金メッキして欲しいと言われました。金メッキをするためには、金が溶けた溶液を使う必要があるのですが、ご依頼なので、まあ、やってみようかと、この作った電池を使って、金メッキをしました。1つの電池だけでは時間がかかるので、8個くらい電池を使った記憶があります。
後日、テレビをみると、「なんと金メッキができる」と驚きのナレーションとともに、メダルが金メダルに変わる様子が放映されていました。電池があって、メッキ用の液があれば、金メッキはできますが、さすがに、いくらなんでも、2000年前に金メッキ用の液はないですね。ですが、こうやって番組は作られるのだと感心しました。金メッキをするときに、最後は面倒だったので、電池ではなく、普通の電源を使って、時短をしました。いわゆる“やらせ”をしたのは内緒です。
◆安部武志(あべ・たけし)2009年、40歳で京都大学工学部研究科教授に就任。電池技術委員会賞、炭素材料学会学術賞などを受賞。京大工学部卒、大阪府出身、50歳。趣味はゴルフ。