【平成物語8】「ハラスメント」は社会のキーワードに

 【平成元(1989)年  「セクハラ」新語・流行語大賞金賞選出】

 スーツにネクタイの記者たちがカシャカシャとパソコンをたたく音が響いていた。2018年4月19日午前0時、東京・六本木のテレビ朝日。未明に行われた緊急会見で、同社の女性社員が取材相手である財務省の福田淳一事務次官(当時)からセクハラを受けていたことが公表された。

 セクシャルハラスメントの略称「セクハラ」という言葉が日本に浸透したのは平成元(1989)年のこと。福岡県で日本初のセクハラ裁判が行われたことが契機だった。12月2日の本紙をめくると「日本新語・流行語大賞」新語部門の金賞に選出されたという記事が掲載されていた。

 「性的嫌がらせ」などと訳されるセクハラにおいて、加害者には“嫌がらせ”という自覚が希薄。事務次官も同様で、女性への謝罪はなく、職場に迷惑をかけた責任を取る形で辞任。麻生太郎財務大臣も「セクハラ罪という犯罪はない」という発言で擁護し、財務省は女性に名乗り出るように呼びかけて批判を浴びた。30年を経ても何も変わっていないのだと実感させられた。

 女性社員が相談した上司(性別非公開)は二次被害が心配されることなどを理由に「報道は難しい」と伝えたことが会見で明かされた。だが既にネット上では匿名の第三者が女性のプロフィルを特定し、中傷する書き込みであふれた。セカンドレイプだ。この「ネット社会」もまた、平成になって拡大した象徴的な事象であった。

 一方で、18年は「#Me Too運動」が世界的に広がり、社会的に強い立場にある男性から性的被害を受けた女性の告発が相次いだ。パワハラについても、女子レスリングの指導者として著名な栄和人氏が告発されたことは記憶に新しい。

 「公益財団法人21世紀職業財団」の客員講師でハラスメント防止コンサルタントを務める猪熊康二氏に見解をうかがった。同氏は「水面下に隠れていたものが顕在化してきたのだと思います」と指摘し、「自分の中にある弱さやダメなところにも向き合い、素直に受け止め、認めていくこと」を呼びかけた。

 つまり“上から目線”になっていないかを自問し、誰もが加害者になりうる可能性があると肝に銘じること。平成の終わりを前に、ハラスメントという言葉は死語になるどころか、「モラハラ」「アルハラ」「マタハラ」など「今や50種類以上あると言われています」(猪熊氏)というほど細分化されている。改元後も社会のキーワードであり続ける。(デイリースポーツ・北村泰介)

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