期間限定「船場のおひなさま」 絢爛豪華な桃の節句は必見です
昔から、大阪は商人の町といわれる。特に船場はその中心で、江戸から昭和初期の頃まで大阪を代表する商店が軒を連ね、華やかな活気にあふれていた。そのような時代に作られた絢爛豪華なひな人形が、2月26日から3月3日まで一般公開されている。会場は船場地域に点在しており、今年は9つの家に代々伝わるひな人形を8会場で展示。うち4会場を巡ってきた。
今回のおすすめは「尾嵜家のお雛さま」。1990年(平成2年)年11月の今上天皇「即位の礼」を模して作られた立ち雛だ。塩昆布や佃煮の老舗で知られる神宗・淀屋橋本店の入口に飾られている。
おひな様は十二単。お内裏様の束帯の色は「黄櫨染(こうろぜん)」と言い、天皇陛下のみに許されたお召し物の色だ。ちなみに店内では期間中「塩昆布煮汁ソフトクリーム(小豆付)」を税込300円で販売。老舗の味をすっきりと味わってみたい。
レトロモダンな建物が目を引く芝川ビル。4階会場に入った途端、紐毛氈(ひもうせん)の朱色が迫ってくる。壁一面に3つのひな壇が組まれた「芝川家のお雛さま」の特徴は、小物類が多いこと。おままごと用だろうか、ミニチュアサイズの食器類も多数そろえてあり、よく見ると有田焼などの有名な窯元のもの。目玉は、今回限りの展示という芝川照吉氏のコレクション。浅草雛や相生雛、琉球雛に舟雛など、価値ある珍しい日本各地の民芸・工芸のひな人形類は点数もあり、かなりの見ごたえだ。
芝川ビルから少し南へ行ったところにあるのが、ふっくらと愛らしい顔立ちが特徴の「鷹岡家のお雛さま」。ひな壇の隣には京都・大阪を中心に愛されたという「御殿飾り雛」も展示。建物の中に内裏雛を置くひな飾りは、普段なかなか見られない。
最後に、北浜駅からほど近い「宗田家のお雛さま」。現在「CuteGlass shop&Gallery」として、趣のある木造建物の入口に飾られている。なんと1878年(明治11年)に作られたという141年前のお雛さまは、皇室や旧家にもひな人形を納めた、京都の丸平大木人形店であつらえたもの。京都の伏見から、舟で淀川を下り大阪まで運ばれたのだとか。よく見ると橘の枝にうぐいすだろうか、鳥がとまっている。熟練の職人の、桃の節句を祝う遊び心がさせた技か。
展示されるおひな様は、一点一点が手作り。人形の、上等の反物で作られたふっくらした着物生地や、細かい刺繍に目をみはる。色褪せもせず「よほど保存状態が良かったのでしょうね」と宗田家ゆかりの人たちに伺うと「いやあ、最近までずっと蔵に入れっぱなしだったので」というから驚きだ。「もう一度誂えようとすると数百万円するでしょうが、詳しいことは分かりません。桃の節句は、家庭の中のお祝い事の一つですから」と事もなげに言われてしまった。
奥さんやお嬢さんたちのことを「ごりょんさん」「いとさん」「こいさん」などと呼ぶ「船場言葉」が飛び交っていた頃を知るひな人形たち。女の子の健やかな成長を願う親心と、当時の船場の繁栄ぶりをうかがい知ることができる、船場の春の風物詩だ。(おふぃす・ともともライター 國松珠美)