人体に致死量100倍以上の覚醒剤成分は入るのか?女性殺害、小川泰平氏が検証
昨年7月22日、東京・渋谷区の自宅で当時28歳の女性に大量の覚醒剤を摂取させて殺害したとして、今月6日に不動産会社役員の石原信明容疑者(69)が警視庁捜査1課に殺人と覚せい剤取締法違反(使用)容疑で逮捕された。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は9日、デイリースポーツの取材に対し、女性の体内から検出された「致死量の100倍を超える濃度の覚醒剤成分」について検証した。
女性死亡から7か月以上を経た逮捕について、小川氏は「(紀州のドンファンこと)野崎さんのように、死因は急性覚醒剤中毒死で間違いないが、本人が誤って飲んだのか(事故)、分かって飲んだのか(自殺)、誰かに飲まされたのか(殺人)といった、あらゆる可能性について裏付け捜査をした結果である」と理由を説明。また、同氏は「覚せい剤取締法違反での逮捕後、殺人容疑での再逮捕も考えられたが、今回は最初から殺人容疑での逮捕であり、半年かけた捜査に自信をもって対応しているのでしょう」と見解を示した。
今回の事件で注目されているのが、「致死量の100倍を超える濃度の覚醒剤成分」が実際にどの程度のものかということ。口から飲んだ場合の覚醒剤の致死量は1~2グラムといわれており、100倍なら100~200グラムとなる。
女性は事件当日、知人に無料通信アプリ「LINE」で「薬物を勧められて断ったが、酒に混ぜられて飲んでしまった」とメッセージを送っていた。だが、100グラムでも通常のコップに入れると“粉”がその半分程度を占める量になり、それを飲み物に溶かすことは容易ではない。
小川氏は「実際に、それだけの量を混ぜて飲むのは普通に考えて無理。本人は酒に混ぜて飲まされたという意識があるのかもしれないが、それが致死量100倍の量なのかは非常に疑問です。また、その時、本人がそれで死ぬとは思っていなかったのではないか。LINEを打つ暇があったら救急車を呼ぶなりすると思う。覚醒剤は非常に苦いという話ですので、その濃さ、量を飲めるものではない」と指摘した。
覚醒剤は1グラム末端価格で3万円といわれており、致死量の100倍である100~200グラムなら300万~600万円になる。小川氏は「金額的なこともそうですし、100倍の覚醒剤を手に入れることは量的にも簡単ではない。覚醒剤1回分が0・02から0・03グラム。その100回分ではなく、致死量の100倍(100~200グラム)ということを考えると、売人が持っているレベル以上のものになる」と分析した。
つまり致死量の100倍ということは現実性がないということ。だが、実際に検出された結果はそうだった。謎は深まるばかりだ。
小川氏は「亡くなった方の体調もあって、血中から出て来る量の倍率が多少違ってくることもあると思います。ですから、必ずしも100倍の量とは言えないと思うが、亡くなるだけの量の覚醒剤を体内に入れたことは間違いない。しかも、そのことを本人がある程度、認識しているところがあった点は、以前あった事例(野崎さんのケース等)と違う点です」と推測した。
可能性として、物理的には致死量100倍でない場合でも、身体の疾患などで血中の覚醒剤成分の濃度が増大したことも考えられる。いずれにしても、小川氏は殺人容疑での逮捕という点に注目し、「殺意を持っていたという点をどのように立証するかが今後の捜査のポイント」と指摘。警視庁では石原容疑者の覚醒剤の入手ルートを調べている。