飼い主とはぐれた被災猫 3・11から7カ月後の“奇跡”の理由

 大きな災害が起きると、人間だけでなく動物たちも命を落としたり、家族と生き別れて行き場を失ったりすることがあります。今から8年前。2011年3月11日に発生した東日本大震災のときもそうでした。宮城県石巻市出身で自らも被災者でありながら、被災動物を預かる施設「石巻動物救護センター」でボランティア活動をしていた矢川淳さんには、忘れられない1匹の猫がいると言います。

 矢川さんがボランティア活動を始めたとき、その猫はすでにセンターにいました。ロシアンブルーで名前は「ロッシ君」。本名は分かりません。センターに来てからつけられた名前です。同センターにいたのは以下のような動物たちでした。

(1)飼い主とはぐれて保護された動物

(2)同行避難できないため、一時的に預かってほしいと依頼された動物

(3)飼えなくなったため、新しい飼い主を探してほしいと依頼された動物たち

 ロッシ君は(1)にあたる保護猫。残念ながら、お盆を過ぎても飼い主さんは見つかりませんでした。そんなとき、静岡県から定期的にボランティアに来ていた女性が「ロッシ君を引き取りたい」と名乗りをあげてくれました。新しい家族に迎えられ、ロッシ君の新しい生活が始まりました。

 その約1カ月後、9月30日をもって同センターは閉所したのですが、ホームページと飼い主さんからの連絡を受ける窓口だけは残されていました。そこに10月上旬、一本の電話が掛かってきます。

 「ホームページに写真が載っている猫が、うちの子によく似ているのですが…」

 担当者が住所を確認したところ、ロッシ君が保護された場所と近く、震災時に猫が移動しても不思議ではない距離だったそうです。すぐに静岡県の女性に連絡が行き、石巻市内での面会がセッティングされました。

 面会当日。犬であれば、本来の飼い主さんを見つけて走っていく姿が想像できます。飛びついたり、顔をペロペロなめたりすることもあるでしょう。でも、猫の場合はそうはいきません。足元にすり寄っていくことはあっても、「決め手」となるほどの動きをする猫は少ないはずです。ロッシ君もそうでした。

 「飼われていた猫ちゃんに、何か特徴はありませんでしたか?」

 担当者の問いかけに、飼い主さんはこう答えたそうです。

 「口の中の上アゴにホクロがあります」

 この言葉を聞いた人たちは皆、驚いたに違いありません。でも、確認してみると…あった!本当にあったのです。上アゴにホクロが!これはもう疑いようがありません。ロッシ君は「グレ君」であると認定されました。

 1カ月余りとはいえ、家族として暮らしたロッシ君との別れは、里親の女性にとってつらいものだったに違いありません。でも、譲渡の際の誓約書には「飼い主が見つかった場合は返還すること」の一文がありました。

 グレ君は飼い主さんのもとへと帰りましたが、その後も女性との交流は続いたそうです。そして、14年12月29日、グレ君は静かに虹の橋を渡りました。

 グレ君のことは、現在プレイボゥドッグトレーナーズアカデミー講師として、ペットに携わる仕事をしている矢川さんにとって「万が一」への備えについて考えさせられるエピソードなのかもしれません。

 「マイクロチップもかなり普及してきましたが、そのほかに飼い主さんができることとしては、ペットの写真をプリントアウトして携帯すること。スマートフォンの中にある画像は、いざというとき開けない可能性もあります。ご家族など複数人で持っておくとなおいいですね。次に、グレ君のようにできるだけ具体的な特徴を把握しておくこと。“上アゴのホクロ”に匹敵するものは難しいかもしれませんが、1つでも2つでも特徴を知っていれば、迷子になったとき発見への手掛かりになります」(矢川さん)

 ペットを飼っている皆さん「万が一」は明日かもしれません。早速、行動に移しましょう。(神戸新聞特約記者・岡部充代)

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