【元自衛官が解説・営業に使える戦闘技術】まずは偵察!見込み客の情報を集めろ
軍事のために開発された技術を、一般人の生活に役立つように利用することは、昔からよく行われてきました。身近にあるものだと、電子レンジ。基本的な仕組みは、食べ物に電波を当てると中に含まれている水の分子が振動して発熱することによって温まるわけですが、これはレーダーを開発する過程で、偶然に発見された現象です。ほかには、ビジネスの世界でも私生活でも欠かすことができなくなっているパソコンも、元をたどれば弾道計算を行うため1946年に開発された「ENIAC(エニアック)」が起源です。
さて、そんな科学技術の粋を集めたハイレベルな製品でなくても、私たちが簡単に利用できる軍事技術があります。もっとも「技術」というより「know-how」と言い表すほうが適しているでしょうか。とくに営業職のビジネスマンやフリーランスで活動されているクリエイターには、大いに役立つはずです。私はこれを「軍事知識の民生転用」と呼んでいます。
新規のクライアントを開拓してパートナーになってもらい、いかにして自社(自分)の利益に結び付けるか。営業をかけてから仕事へ結びつける流れは、自衛隊の戦闘部隊が敵部隊を攻撃する行動パターンと一致する部分が驚くほど多いのです。
多少の例外はあるものの、戦闘は「攻撃」と「防御」に大きく分けられます。ここでは自衛隊の普通科部隊(歩兵部隊)が行う基本的な攻撃行動の訓練パターンを例にとりながら、営業活動にどう応用できるかの一例を解説していきます。あらかじめお断りしておきますが、すべての営業活動にそのまま当てはめることはできません。参考にしながら、工夫してください。
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前振りが長くなりました。本題へ入りましょう。
見込み客とは「自社の製品を売り込もう」と目星をつけた相手のことをいい、商売相手になるかどうかはまだ分かりません。しかし、ビジネスの多くは、見込み客の探索から始まります。これが「偵察」です。
部隊が行動を起こす前には、必ず「偵察」を実施します。その目的は、敵の居場所と意図を探るため。「偵察」を営業活動にあてはめてみましょう。顧客を新規に開拓しようとするとき、どこにどれだけの見込み客がいるのかを知らなくては営業まわりができません。そのためのリサーチが偵察にあたります。
今やインターネットから手に入らない情報はないといわれていて、恋人の気持ちと自分が死ぬ日以外は何でも分かる時代になりました。
世の中にはどんなニーズがあって、見込み客がどこにどれだけいるかという概略ぐらいは、おそらくネット検索すればだいたいの見当がつくでしょう。メールアドレスが分かれば片端からメールを出し、返信で反応が良かったら訪問するのが効率的です。メールがどんなに便利とはいえ、営業の基本はあくまで訪問。訪問して自分の目で見て自分の言葉で会話をしなければ、相手の本当のニーズは探れないのです。同時に相手の事情も知らねばなりません。「商品を買ってくれるのか」「パートナーになり得るか」ということと「この地域で商売が成立するか」という地域の特性まで含めた情報を得て、はじめて「偵察をした」といえるのです。作戦行動と異なる点があるとすれば、訪問は相手の都合を聞いてアポを取りますが、部隊の行動ではいちいち敵にアポを取ることはありません。
ここでひとつの疑問が湧きます。偵察をした結果、もし敵がいなかったら? 見込み客だと思って訪問したけれど、実際には商売相手になり得えないことが分かったら?それも情報です。「○○地域に敵なし」という、これもまた重要な情報なので「探したけど見つかりませんでした」は、決して徒労ではありません。ただし、偵察の目的は、あくまで情報収集であることを忘れてはなりません。(神戸新聞特約記者・平藤清刀)
◆平藤清刀(ひらふじ・きよと)ブックライター。1962年、大阪府出身。陸上自衛隊~警備会社勤務を経て現職。ビジネス書、取材記事、著名人のインタビュー記事などを手掛ける。著書「自衛隊ウラ話 喋り出したら止まらない」「自衛隊vs米軍もし戦わば」「自衛隊の掟」ほか。