バイトテロによる不適切動画 従業員への罰金は合法か…元アイドル弁護士が解説
飲食店などにおいて、アルバイト従業員が不適切動画を撮影してSNSに投稿し、店側が顧客の信用を失うなどの多大な被害をこうむる“バイトテロ”と呼ばれる事態が相次いで起こった。店側の中には従業員に対し、刑事告訴・告発と民事の損害賠償請求の両面で法的責任を追及しようとする動きも現れている。不適切動画に関連する最近の法律相談について、元アイドルで歌手デビューも果たした平松まゆき弁護士にQ&A方式で解説してもらった。
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Q 最近の不適切動画関連での法律相談はありますか?
A ちょうど先日、「最近私のバイト先で不適切動画撮影の防止策としてスマホを仕事場に持ち込めなくなりました。違反したら1回につき1万円の罰金をとって給料から天引きするそうです。守ればいいだけの話なのですが、突然でなんだか納得いきません。」という相談が寄せられました。不適切動画に限らず、遅刻やミスなどで会社から罰金をとられたという話はよく聞きます。罰金の額も数百円から数千円とさまざまで、中にはプールした罰金は従業員の年末の飲み会で使うという会社もあるみたいですね。
Q 従業員に対する罰金(金銭的ペナルティー)に関して、法律はどうなっているのでしょうか。
A 労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」としています。会社に生じた実損害とは無関係にあらかじめ決められた一定額の金銭を要求されるとなると、従業員は経済的のみならず心理的負担も抱えることになり、不当な足止めや従属関係が生じますよね。そこで法は、従業員を萎縮させるような契約をしてはならないとしているんです。
Q でも会社の規則などであらかじめ「減給処分」が決まっている場合もありますよね?
A はい。ですが就業規則の「減給」と、単なる「罰金」とは性質が違います。懲戒処分というものは、懲戒規程自体の有効性が問われますし、いざ処分となると客観的で合理的な理由や、社会的相当性なども求められます。要するに、懲戒処分は会社側として乗り越えるハードルがそれなりに高いんですね。簡易に徴収できる罰金とはわけが違います。
Q そうすると今回の相談のケースではどうなるのでしょうか?
A バイト先が就業規則で周知するでもなく、いきなり根拠のない金額で罰金ルールを始めたのだとしたら、バイト先の決定は違法ということになります。そしてこの違法については6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という重い罰則があります。たとえ貯まった罰金を従業員の飲食代に還元するとしても結論は変わりません。なお、労働基準法24条1項は「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」としていますので、給料から天引きすることもまた違法ですね。
Q でも最近は「バイトテロ」が社会問題になっていますし、ちょっとバイト先が気の毒な気もしますが。
A もちろん従業員の悪質な行為によって会社に損害が発生した場合にまで損害賠償請求が禁じられるわけではありません。労働基準法16条は、実損害とは無関係に違約金または賠償請求の予定をしてはならないとしているだけであって、従業員の故意過失によって生じた損害について、民事上(または刑事上)の責任を追及することは当然可能です。不適切動画問題については各社が法的措置を検討しているようですので、新たな法整備の可能性も含めて今後の動向に注目したいですね。
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平松まゆき(ひらまつ・まゆき)弁護士。大分県別府市出身。12歳のころ「東ハト オールレーズンプリンセスコンテスト」でグランプリを獲得し芸能界入り。17歳の時に「たかが恋よされど恋ね」で歌手デビュ-。「世界ふしぎ発見!」のエンディング曲に。20歳で立教大学に入学。芸能活動をやめる。卒業後は一般企業に就職。2010年に名古屋大学法科大学院入学。15年司法試験合格。17年大分市で平松法律事務所開設。ハンセン病元患者家族国家賠償訴訟の原告弁護団の1人。