労基署の是正勧告 放置すると刑事罰、ブラック企業の烙印…元アイドル弁護士が解説
上限を超える時間外労働(残業)をさせたなどとして吉本興業と子会社(いずれも大阪)の東京事業所や、大手芸能事務所のアミューズ、LDH JAPANが労働基準監督署から相次ぎ是正勧告を受けていたことが発覚した。3社は勧告を受け入れ、対応を進めていくことを表明している。他方、是正勧告に従わない企業も散見され、その場合はどのようにして法的手続きが進むのか。元アイドルで歌手デビューも果たした平松まゆき弁護士にQ&A方式で解説してもらった。
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Q 大手芸能事務所3社に労働基準監督署の是正勧告が出されたようですね。是正勧告とはどういうものですか?
A 是正勧告は、労働基準監督署(労基署)が労働法規に違反する企業に対して行う行政指導です。そもそも労働法規は労働者保護を目的として、労働条件・時間・賃金などについて各種の規制を定めています。そしてこれらの規制の実効を確保するために設けられたのが行政監督機関である労基署であり、是正勧告も労基署に認められた監督権限のうちの1つです。
Q 年間どれくらいの是正勧告が行われているのでしょうか?
A 厚生労働省の発表によりますと、2017年4月から18年3月までの間に労基署の監督指導の対象となったのは2万5676事業場で、そのうち1万1592事業場(45.1%)に対し是正・改善を求めたということです。
Q どういう場合に是正勧告などの監督指導の対象とされるのですか?
A 対象となる企業を労基署が一定の基準の下に主体的・計画的に選定して立入調査等を行う「定期監督」や、労働者らからの申告によって事情聴取等が行われる「申告監督」があります。厚生労働省が発表した労働基準監督年報では、16年中の「定期監督等」が13万4617件、「申告監督」が2万1994件だったようです。労働者らからの申告は氷山の一角でしょう。
Q 是正勧告に従わない企業はどうなるのですか?
A 是正勧告それ自体は行政指導ですから法的な強制力はありません。しかし是正勧告に繰り返し従わない悪質で重大なケースについては、検察庁に送検して刑事司法手続きの下に置かれます。労働問題で刑事罰というのはイメージしておられない使用者も多いようですが、明文で懲役や罰金が定められており、過去5年分の報告を平均すると年間約1000件もの送検が行われています。また、これに加えて近年は厚生労働省のホームページ上にて、送検された企業名や違反内容の公表も行われるようになってきました。いわゆるブラック企業の烙印ですね。
Q 芸能事務所で違法な長時間労働が多発するのはなぜでしょうか。元アイドルというご自身の経験で思うところがありますか?
A タレントや芸人さんをはじめ、芸能界で働く皆さんは特に駆け出しの頃は少しでも多く仕事をして世に出たい、そのためには過労も厭わないという心理状態になると思います。その気持ちは彼らを一番近くで見て支えているマネジメント側も変わらないはずで、自分の体やプライベートとのはざまで苦しいジレンマを抱えるのだと思います。また、芸能界は「定時」を観念することが業態上困難ですから、そもそも労働時間の概念になじみにくいのも現実です。いずれにしても芸能は夢を与えるお仕事ですから心身が資本です。芸能界で働くすべての皆さんの労働環境に配慮した場であってほしいですね。
◆平松まゆき(ひらまつ・まゆき)弁護士。大分県別府市出身。12歳のころ「東ハト オールレーズンプリンセスコンテスト」でグランプリを獲得し芸能界入り。17歳の時に「たかが恋よされど恋ね」で歌手デビュ-。「世界ふしぎ発見!」のエンディング曲に。20歳で立教大学に入学。芸能活動をやめる。卒業後は一般企業に就職。2010年に名古屋大学法科大学院入学。15年司法試験合格。17年大分市で平松法律事務所開設。ハンセン病元患者家族国家賠償訴訟の原告弁護団の1人。