幻の「なっぱ電車」復活へ?神戸市営地下鉄と八百屋女子の壮大過ぎる計画
「なっぱ電車」をご存じだろうか。2013年まで京成電鉄を走っていた野菜行商専用列車の通称だ。これだけではない。かつては魚や野菜を運ぶ行商列車が日本中を行き交ったが、平成が終わる今、残るのは近鉄の鮮魚列車1編成のみという。そんな中、神戸市営地下鉄でその幻の光景が1日限りで再現された。採れたてのニンジンやホウレン草が詰まった台車で乗り込んだのは、23歳の「八百屋女子」。その壮大な野望とは-。
◇フードロス削減に「規格」をなくしたい
ソーシャルビジネスに取り組む「ボーダレス・ジャパン」のグループ会社として、八百屋「タベモノガタリ」を経営する竹下友里絵さん。「規格外」の野菜が大量廃棄される現状を知り、「見た目と味は関係ない。規格自体をなくし、本当に新鮮でおいしい野菜を届けたい」と神戸大4年生だった今年2月に起業した。
今回、竹下さんが乗り込んだ市営地下鉄西神・山手線の始発駅、西神中央駅周辺には住宅街の周りに田園地帯が広がり、野菜やコメが生産されている。だが、例えば旬のチンゲン菜では「小さい虫食いが1か所とか、葉が左右不ぞろいなだけで『規格外』。1割ほどは廃棄になる」とある農家。レストランなどとの直接契約や三宮や大阪など都市部での直売も増えてはいるが、別の農家は「人員不足で配送料も上がり、自前で運ぶにも人件費や交通費の方が高くつく。多少規格が厳しくても従来の流通ルートの方が楽」と打ち明ける。
◇高齢化、空洞化するニュータウン
一方の神戸市営地下鉄。都心と郊外のニュータウンを結ぶ動脈として1977年に開業し、1日平均約31万人を輸送する。だが、中にはまちびらきから30年以上経過し、急激な高齢化で「オールドニュータウン」化する街区も少なくなく、沿線の神戸市須磨区は日本創生会議の「消滅危険都市」に名を連ねた。
地下鉄の乗降客数も漸減傾向が予測され、若い世代にもアピールできるような駅周辺の活性化が課題になる中、持ち込まれたのが竹下さんの企画だった。「産地と消費地が近い神戸の利点を生かしつつ、CO2排出量の少ない輸送方法として地下鉄を見直すきっかけになれば」と同市交通局。オフピーク時の平日昼間に野菜を運ぶ、前例のないイベントに踏み切った。
◇驚く乗客を後目に…
当日、竹下さんはその日の午前中に駅から約2キロにある畑で収穫したダイコンなどをコンテナ8個に積み込み、台車に載せて車内へ。縦横奥行きの3辺の合計が2.5メートル以内、重さ30キロ以内という「手荷物」ギリギリの大きさだ。不思議そうな乗客の視線を浴びながら、約30分。兵庫県庁など公的機関が集まる「県庁前駅」に到着し、構内に仮設売り場を作ると、主婦や公務員らが次々と買い求めた。
葉や土付き、いびつな形の野菜もかえって「新鮮そう」と好評で、協力した農家の山崎高志さん(38)は「最寄り駅までなら運ぶ時間も手間もかからない。地元の産地のアピールにもなる」と歓迎する。
◇「なっぱ地下鉄」実現は
ただ、現在は人の輸送が主目的のためイベント限りの運用とか。それでも「なっぱ地下鉄」実現の可能性は「ないわけではありません」と同市交通局営業推進課。「今年2月に導入した新型車両6000系には全車両に車いすやベビーカー利用客を想定したフリースペースがあり、全編成が新型に置き換わる5~6年後には時間を区切って荷物を運ぶことは可能です」とのこと。遠くない未来、電車で野菜を運ぶのがまた、当たり前の風景になる日が来るのかもしれない。(まいどなニュース・広畑千春)