今はどこに…革の学生かばん 実は高機能、昔を懐かしむ人らから注文も

 このGW、来春の小学校入学に向けたランドセル選び=「ラン活」に励んだご家庭も多いのではないでしょうか。そのカラフルなランドセルが並ぶ売り場でふと浮かんだ、「中高生の革の学生かばんってどこへ行ったの?」という疑問。調べると、平成に入ったころを境に布やナイロン製のスクールバッグへの転換が進み、今も製造するのは国内でわずかに2、3社だけ。そのうちの1社を大阪府松原市に訪ねました。

 かばん製造・販売の「アトナ商会」。代表の風間厚徳さん(42)は、学校の指定かばんにしている数10校のほか、鹿児島県や茨城県の一部地域など、進学のお祝いとして贈られ使われている地域向けに学生かばんを製造しています。

 「学生かばん」を知らない人もいるかもしれませんが、平成の始まりごろまでは、中学高校のかばんといえば、革もしくは人工皮革の手提げかばんでした。バスケットボールを題材にした井上雄彦さんの人気漫画「スラムダンク」でも、主人公の桜木花道が手にするのは黒くて薄い学生かばん。雨が降ったら傘替わりになり、ケンカの際は防御もできる(!)優れものです。男子は片手で肩にかつぐのがイケてるとされました。

 なるべく薄いのがおしゃれで、分厚いのは「ブタかばん」とバカにされました。薄くするため芯を抜き、布団の下に敷いて寝る。お湯で濡らした布で巻いてつぶす…。みんな真剣でした。当然、教科書もノートも入らないので、教室の机に入れて帰る「置き勉」で、必要なものは別のバッグに。アイドルのステッカーを貼ったり、自分の座右の銘を書いたりする生徒もいて、1年生の春はブタかばんを維持させようとする教師陣との攻防が繰り広げられました。

 ですが、風間さんによると、昭和から平成に時代が変わり、制服が詰めえり(学ラン)とセーラー服からブレザーなどに一新されるのに合わせ、かばんも何でも入れられて軽く、何より無難だということでスクールバッグに変える学校が増え、学生かばんは1990年代半ばぐらいまでに急速に姿を消しました。風間さん自身も、中学入学直前にスクールバッグに変わり、使うことはなかったそうです。

 それでも、幼い頃から祖父や父が作るのを見続け、周囲の先輩たちが使っていた学生かばんは「あこがれだった」と風間さん。大手も中小も製造から手を引く中、「数は少なくなっても、使い続けてくれる人がいてくれる限り、作り続けたい」と2011年に独立しました。

 かつては医師の診察にも使われていたという学生かばんは、実は多くの機能が盛り込まれています。ファスナー付きのポケットがあちこちにあり、持ち手裏には折り畳み傘をしまえるベルトや鍵まで。それを熟練の技で100個ずつ4日かけて縫い上げていきます。

 数年前には、余った革でビジネス用に茶色やネイビーの学生かばんを試作。インターネット通販の「楽天市場」で販売したところ、昔を懐かしむ人らから注文が舞い込むようになりました。A4の書類も折れ曲がることなく持ち運べ、実は仕事にぴったりです。「いつか、もう一度良さを分かって復活してくれたらうれしい」と風間さんは目を細めます。

 最後にもう一つ。実は風間さんは深い「かばん愛」から自ら歴史をたどり、自社のホームページで紹介しています。10年ほど前、一番手前のポケットの盛り上がりについて調べていたとき、当時80過ぎの職人から「上皇陛下と美智子様の成婚パレードがテレビ放映されたころ、ブラウン管のふくらみにヒントを得て作られた」と説明を受けたとか。ほかにフラットでは鍵がかけにくいから-という説もあるそうです。そんな壮大(?)で奥深いところも、魅力なのかもしれません。(まいどなニュース・広畑千春)

   ◇  ◇

▼アトナ商会 http://www.atona-bag.com/

▼楽天市場店 https://www.rakuten.co.jp/gakuseikaban/

2段マチ黒 9400円、チョコブラウン1万2000円(税込)※欠品時には店舗に確認を

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