ユルさと独特の「間」がキモチいい 仏アニメ映画祭で特集の和田淳ってどんな人?

 仏アヌシー国際アニメーション映画祭で短編が特集される和田淳さん=大手前大学(撮影・広畑千春)
 「わからないブタ」の一場面(和田さん提供)
 仏アヌシー国際アニメーション映画祭で短編が特集される和田淳さん=大手前大学(撮影・広畑千春)
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 日本画を思わせるような淡い色彩の背景の中、繊細な一本の線で描かれた無表情で平たい顔の人物や動物たちが織り成す、不思議な世界。捉えどころがないのに、なぜか気になる。もういいやと思うけれど、つい見続けてしまう。そんな作品を次々と生み出す、アニメーション作家で大手前大学准教授の和田淳さん(38)=神戸市。6月にフランスで開かれる世界最大級の「アヌシー国際アニメーション映画祭」でも作品が特集されることが決まった。そんな気鋭の作家の素顔とは-。

 和田さんは2002年ごろから独学でアニメーションを始め、東京芸術大学大学院などで映像を学んだ。基本的に1人で制作するため短編が中心で、ふくよかな人物や動物らが独特の動きを繰り返したり、思わぬ動きをしたりする。

 家の前に寝転ぶ巨大なブタとその家族・犬との微妙にズレた関係を描き、国内外で作家性が高く評価された「わからないブタ」(2010年)は、審査評ですら「わからない。いや、そもそもわかろうとして向き合う作品ではないのかもしれない」。2012年ベルリン国際映画祭で準グランプリの銀熊賞を受賞した「グレートラビット」の冒頭では「そのウサギを信じるのならすべて信じることになり、そのウサギを信じないのならすべて信じないことになるだろう」…と、既に哲学だ。

 -アニメを始めたきっかけは?

 「子どものころ、ダウンタウンさんのコントとかをずっと見ていました。あの絶妙の間や感覚がとにかく好きで。それを映像で表現できたらと思って芸術系大学を目指したんです。でも、実写だと演じる人に撮影する人、背景、気象条件などに左右されて、1人で思うような絵や間を作るのは難しい。絵(アニメ)なら自分一人でできるな、と」

 -絵は好きだったんですか?

 「いえ、実はコンプレックスで(笑)。特に骨格などに基づいた基礎描写が苦手なんです。向上心も無い方なんで、基礎技術で勝負しない独自の路線を探してて…。でもアニメっていっぱい作画しないといけないじゃないですか。必要に迫られて今の画風に行き着いたんです」

 -なんと。そんな逃げに逃げて、ここまでたどり着くなんて…!でも実に独特です。

 「普段生活していて、変な人やもの、変な動きを見たりすると、ついじーっと見てしまうんです。制作もストーリーや目的があるわけではなく、その動きが反復したり静止したり、突然何かに邪魔されて『ブツン』と切れたら…と、自分にとっての『キモチいい動き』を思い浮かべ、どう展開すれば効果的なのか、ストーリーを肉付けしていくイメージです」

 -「キモチいい動き」?とは??

 「『ぬめっ』とか『ぬるっ』『ばふっ』とかいう動きや、何かと何かがゆっくりとこすれる動き、好きなんですよねぇ。あんまり他人には理解されないですけど(笑)。それをアニメーションでも積極的に取り入れたのが2005年ごろ。すると、作品が本当に『自分のもの』であり『一部』と感じるようになってきた。それが評価して頂けた。幸運です」

 -確かに、作品からは「肉感」を感じます。アヌシーでは20年ぶりに日本が「名誉国」に選ばれ、和田さんの2004~19年の短編9本が特集上映されます。

 「上映順は単純に作った順です。すみません。技術力に差がありすぎて、年代順でないと僕も観客も見ていてしんどくなるので(笑)。最新作の『ヴィヴァルディ・秋』は、クラシック音楽の『四季』を3人の外国人作家と、それぞれの季節をアニメーションで表現するんですが、『伝えたいこと』って特に無くて(笑)」

 -でも色合いとか日本画風ですし…

 「いえ、色彩はビビットな色が苦手で鈍い色や淡い色が好きなだけで、特に和を意識しているわけではありません。僕の作品すべて、そんな感じです。見ていてしっくりきたり、ザワザワしたり、ハマったなら存分に笑ったり…。自由に『感じて』もらえたら」

 「ただ、今回はAI(人工知能)が音楽に合わせて映像の速度を調整するというこれまでにない演出で、実際どうなるか僕にもわかりません。でも、今回のように映画やテレビだけでなく、ネットやゲーム、音楽など、アニメを使っていろんな表現ができるのでは、と思うんです」

 作品と同じように、人柄を捕まえようとしてもするりとすり抜けてしまう、軽いかと思いきや底が見えないほど深い、不思議な魅力を放つ和田さん。フランスに見に行くのはちょっとハードルが高いですが、作品の一部はYouTubeやホームページから見ることもできます。長すぎる10連休で疲れたココロに、和田ワールドはいかがですか?

(まいどなニュース・広畑千春)

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