アメフトと茶道に共通点?元選手がホスト役に挑戦したユニーク茶会
平成も残すところ2日となった4月29日、奈良で一番古い商店街といわれる「もちいどのセンター街」にある築160年の茶室で、「安愚楽(あぐら)茶会」という変わった名前の茶会が開催された。ホスト役である「亭主」を務めたのは、久門優介さん(27)。「安:安心して」「愚:冗談を交えて」「楽:気楽に」のコンセプトのもと、3席で各10名の定員を超える40名近い人たちが参加。観光客でにぎわう奈良町の喧騒をよそに、落ち着いた空間で思い思いのひとときを過ごした。
学生時代はアメリカンフットボールに明け暮れ、お茶とは縁もゆかりもなかったという久門さんが、茶道の門を叩いたのは2年前。就職した奈良で一人暮らしをはじめ、行きつけの飲食店の忘年会でたまたま向かい座ったのが、茶室の持ち主の藤田道世さんだった。道世さんは、もちいどのセンター街の和紙と工芸品を扱う「藤田芸香亭(うんこうてい)」の店主の顔のほかに、宗智の名前で茶道を教えている。月2回の稽古に誘われた久門さんは、すぐに茶の湯の奥深さに夢中に。今回、自分と同じように茶道と無縁の人にも、敷居を低くして気軽に茶会を楽しんでもらいたいと、自ら名乗りを上げて初めての亭主を務めた。ふたを開けてみると、参加者には茶の湯に詳しい人もおり、茶道具の由来など「想定外の質問」に冷や汗をかく一コマも。本人は「あぐら」気分どころではなかったようだが、参加者はあぐらをかいたり低い椅子に腰かけたりと、思い思いの姿勢で茶会を楽しんだ。
「久門君はアメフトをやっていたからか、目が確か。お稽古をきっちり見てすぐに覚えるし、体育会系のせいか上下関係もきっちりして礼儀正しい。今までにいないタイプの生徒さんやね」と目を細める宗智先生は、この日のお菓子「琥珀糖」を手作りして愛弟子を後方支援。本人も「アメフトは、相手の動きやポジション、状況などから、自分の取るべきプレーが決まる。セオリーや作法が大切というところが茶道と似ていると思います。これからお稽古を重ねる中で、理屈で考えずに右脳だけで無意識にお点前できるくらいになって、みなさんとお話することにもっと左脳を使えるようになりたいですね」と、元アメフト選手らしい戦略分析。
茶会の亭主は、茶器はもちろん掛け軸や花まで、すべての道具や空間を季節やテーマにあわせて調える。この日、床の間に掛けられた軸は、奈良らしい「鹿千匹」の画。茶杓には未来へ期待を込めて「これから」という名をつけた。奈良は「わび茶」の祖とされる村田珠光生誕の地であり、珠光発案といわれる茶筌が国の伝統的工芸品として作り続けられる茶道ゆかりの場所。藤田芸香亭では、これからも様々なコンセプトで、開かれた茶会を行う予定だ。
5月19日には、縁結びで知られる奈良町の御霊神社で、合同の野点茶会が行われる(11時~15時30分に随時お点前※雨天中止)。新緑の奈良観光の途中に、一服いかが。(まいどなニュース特約・鹿谷亜希子)