サラリーマンの味方「ランパス」が“絶滅危機” 100→20エリアに
「ランチパスポート(ランパス)」をご存知だろうか。1冊1080円(税込み)で、掲載された地域の飲食店の、通常700円以上するランチが3カ月間、1軒につき3回まで、税込み500円のワンコインで食べられるという、なんとも魅力的な冊子だ。だが、今そのランパスが苦境にさらされている。原材料費の高騰や印刷コストなどに加え、持ち上がったのが、今年10月にも予定される消費増税への懸念だったという。
神戸市の男性会社員(47)は、書店に並んだランチパスポートの表紙を見て言葉を失った。そこには「感謝御礼 最終号」として「5年間ありがとう!」の文字が書かれていた。2014年8月の発刊以来、これまでに5冊ほど買ってきたが「お得なのはもちろん、初めての店にも挑戦しやすかった。なくなったら以前みたいに近場で食べるしかない」と嘆く。
形の上では「休刊」だが、「ランチパスポート神戸版」の編集部は「取り扱って頂いていた書店も相次ぎ閉店し、売り上げが伸びにくくなってきていたんです」と打ち明ける。2015年には約1万2千部あった発行部数も、現在は約5千部まで減った。3カ月持ち歩けるよう上質な紙でフルカラーのため印刷コストも割高な上、「小麦粉を始め原材料費の値上げが続き、当初の豪華なレベルを維持できなくなった店もありました。リピーターのお客様も多く、続けたい気持ちも強かったのですが、この上さらに消費税が10%になれば店側も持たないとなり、5年という節目をもって一区切りと決めました」という。
半年間ランパスに掲載していた洋食店「地獄谷パラダイス」=神戸市中央区=の三木晴雄さん(59)は「お客が増えて賑やかになっていたし、休刊すると寂しくなるね」。一方で、やはりコスト面は難しく「今でギリギリで、ほぼ儲けなしのメニューもある。消費税が上がればアルバイトを雇っている店はほとんど赤字になるのでは」と話す。
兵庫県内では尼崎、西宮、伊丹市を対象にした「阪神版」もあったが、昨年で休刊に。ランチと夜の「ちょい飲み」を合わせた「尼崎グルメ手帖」は今年7月まで、「ちょい飲み手帖」や「飲み会手帖」の発行は続けるという。ランパス神戸版は最終号とあって、神戸版の売り上げは通常の2~3倍になっているという。
そもそも、ランチパスポートは2011年に高知市の出版社「ほっとこうち」が始めた。掲載店は広告料を取らない画期的な手法を採用。読者、掲載店、書店、出版社の「四方良し」のビジネスモデルとして地域経済の活性化にも貢献し、メディアにも続々と取り上げられ、全国に広がった。同社によると、2016年ごろにはエリア数が100を超え、2017年6月には42都道府県に広がった。
だが、「戦後最長の景気拡大」とは対照的にサラリーマンらの懐事情は厳しいまま。原材料費や人件費は値上がりが続く一方で、中食や宅配サービスとの競争など外食業界が置かれた状況は厳しさを増す。店側が「500円」のメニューに対応できなくなったり、都心ではお客が増え過ぎて対応できなくなったりする課題も生じ、今も継続発行するのは20エリアに。同社では現在、次の事業展開を模索しているという。
にしても、赴任する先々でその地域のランチ探しを生きがいにしてきた記者には、休刊は悲しい限り。ああ、世知辛い世の中ですね…。
(まいどなニュース・広畑千春)