印鑑行列、紙で過剰な資料、根回し至上主義…不思議な「社内ご丁寧文化」はなぜ?

「社内ご丁寧文化にさようなら」と題されたセミナー=大阪市北区
これ、あなたの会社でもありませんか?
ご丁寧文化脱却のための改革案。さて、できるのか…
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 新社会人の皆さん、もう仕事には慣れましたか? 学生時代と全く違う「作法」に戸惑ったり、それができずに上司に怒られたりした人もいるかもしれません。ただ、中には「誰が作ったかは分からないけれどみんなやっていて、やらないと『失礼な奴』と言われてしまうけど、よくよく考えるとこの働き方改革の時代、省いてもいいのでは…」という不思議な文化も。みなさん、どう思われますか?

■いろんなツールはあるけど…結局、メール

 一般社団法人「日本ビジネスメール協会」(東京都)の2018年調査では仕事で周囲とコミュニケーションをとる主な手段は、「メール」が96・5%。「電話」(90・0%)、「会う」(68・9%)と続きます。LINEやChatworkなどインスタントメッセージを導入する会社も増えてはいますが、このトップ3は2011年から不動だそうです。

 ただ、このメールが曲者。「時候のあいさつから始めるべきか、いつも悩む。二言目には初めての相手でも『いつもお世話になっております』。でも、他に言葉がなくて…」と食品メーカー勤務の30代女性。文末は「この先のお付き合いはなさそうな相手でも、必ず『今後ともよろしくお願い致します』。でも、これがないと何となく収まらない」といいます。

 社内メールも大変です。部品メーカーの40代男性は「社内には部署別に序列があって、それを間違えると大問題」。別の50代男性も「新人のころ、複数の部署の上司に文書を作って送信するのに2時間半。でも、中身は会議の予定を伝えただけ」と苦笑します。

 日本企業で働く中国籍の40代女性は、「新入社員研修で『社内メールは、さん付けで』と教えられ、その通りにしたのに相手からは『さま』で返ってきた。何度送っても誰に送っても同じなので、最近は自分も『さま』にしています。あの研修は何だったんでしょう?」。

 ちなみに、かつて国家公務員として働いていた女性は、男性上司に「俺はメール読まへんから、連絡があれば紙で持ってこい」と言われたそうです。

■会議の事前打ち合わせのための検討準備会???

 近年、日本企業の会議の多さがよく指摘されています。週に数回、一日に数回ある会社も少なくありません。

 さらに、サラリーマンを苦しめるのが日本独特の根回し文化です。メーカー勤務の40代男性が経験したのは、役員クラスも出席する会議に向けた事前打ち合わせのための「検討準備会」。「もはや、自分でも何のための会議なのかサッパリ分からない」と頭を抱えます。男性は海外でも勤務しましたが、「日本企業は商談でも『持ち帰って検討します』ばかり。海外のトップは、あやふやなことがあっても大枠で行けると思えばトップの責任で『Go』と言うけれど、うちであやふやなまま企画なんて出そうものなら…」。根回しのために2カ月かかったこともあったそうです。

 会議の資料作りも大仕事です。「人数分をコピーして、サイズはA4で、大きい資料は折って合わせる。フォントも指定。ペーパーレスの時代、タブレットで共有したら時間も経費も手間も省けるのに、後で突っ込まれるのが嫌だから自らやってしまう」(メーカー勤務50代男性)。マスコミ関係の50代男性は「チームの会議に、部の会議に、プロジェクトの会議に、役員が出席する会議…。その間、全く手持ちの仕事は進まない」とため息をつきます。

■お役所名物、決裁の長~い列

 役所や金融関係で働いたことのある人ならご存じかもしれません。係長、課長、次長、部長…と延々と続く決裁の印鑑。これをもらわないと、仕事は前に進みません。ですが、地方公務員の30代男性は「決裁のために、ずっと順番待ち。前の人が終わったときに電話などで伝えてくれたら別の仕事ができるのに、このやり方でずっとやってきているし、上司に『変えてください』とは言いづらい。無理ですよ」とあきらめ顔です。

  ◇  ◇

 こんな文化を「社内ご丁寧文化」と名付け、脱却を目指すセミナーが大阪で開かれました。主催したのは関西の企業の有志でつくる「ダイバーシティ西日本勉強会」。当日は企業の人事担当者ら約30人が集まり、社内の不思議な文化を挙げると、出るわ出るわ。会場は共感の嵐に包まれました。さらに「メールでは『お疲れ様です』ではなく『おはようございます』『こんにちは』を使う」「会議で発言しない人は参加権を失う仕組みにする」「紙でなくタブレットなどで情報共有」など、改革意見が出されました。

 家具メーカー「オカムラ」(横浜市)でIoT(モノのインターネット)を通じたビジネスモデル革新を企画・推進するDX推進室長の遅野井宏さんは「メールの文面など、紙の時代の作法の残りだと思うが、丁寧にし過ぎて本当の意味での『言葉』が薄くなってしまっているのでは」と指摘。同社では社内連絡にインスタントメッセージを使っているが「所属や立場、世代が違うメンバーの距離も縮まり、仕事もしやすくなった」と言い、「業務改善でもTY(とりあえずやってみる)の思想が大切。トップの役割は大きい」と話します。

  ◇  ◇

 大阪大学キャリアセンターの家島明彦副センター長の話:本来、ビジネス上の礼儀や定型は仕事を円滑に進めるために生まれたはずだが、多様化が進み、逆に円滑なコミュニケーションの阻害要因として語られ始めている。理想は相手に応じた個別対応だが、礼儀や定型をすべて無くすというのは非効率的。まずは定型をマスターし、それぞれの相手との関係に応じて望ましい形でアレンジしていく先に、新たなビジネスコミュニケーションの形が生まれるのかもしれない。

(まいどなニュース・広畑千春)

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