SNSで話題の渋沢栄一 そのルーツは二宮金次郎にあった!
2024年度から1万円札の肖像画となる実業家の渋沢栄一がSNSで話題になっている。だが、その渋沢に影響を与えた人物が、あの二宮金次郎(尊徳)であることをご存じだろうか。その生涯を描いた映画「二宮金次郎」が6月1日から東京都写真美術館ホールで公開される。渋沢は金次郎から何を学んだのか?今作を企画し、「土の匂いのする映画」にこだわった五十嵐匠監督に聞いた。
「渋沢栄一はドールおじさん」-。そんなフレーズがツイッターで飛び交う。日本国際児童親善会を設立し、日米の人形を交換して交流を深めたことで親近感が広がっているようだ。さらに「渋沢栄一氏の凄さがわかりやすい」として、国立第一銀行(みずほ)、王子製紙など500社以上を起業した人物であることを紹介し、「リアルチートマンやぞ」と称える投稿も。「チートマン」というゲーム世代ならではの表現から、若い層による興味の高まりが伝わる。
渋沢の源流をたどると金次郎にたどり着く。五十嵐氏は「『日本近代経済の父』といわれた渋沢栄一の著書に『論語と算盤』があります。その内容は『論語により人格を磨き、算盤で起こした経済を社会に有意義な使い方をせよ』というようなものでした。渋沢は『道徳と経済は同じものである。また、私自身の経済活動そのものも公益につながらなければならない』と考えていました」という。
渋沢は、経済活動で得た利益を社会のために還元する「道徳経済合一説」を唱えた。五十嵐氏は「二宮尊徳もまた、『道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である』と述べています。2人とも自身の人格形成を深めながら、それを経済に生かそうとした人間のように思います」と共通性を説いた。
金次郎といえば、薪を背負って書物を読む少年時代の像が戦前から全国各地の小学校に置かれていたが、なぜ今の時代でも再評価されるのか。浅野忠信主演の「地雷を踏んだらサヨウナラ」(1999年)や松田龍平主演の「長州ファイブ」(2006年)といった作品を監督した五十嵐氏は、その理由として「分度」を挙げた。
「分度」とは収入に応じた基準で、状況をわきまえて生活すること。ただ、経済格差が広がる今の日本で、この「分度」という言葉は「自分の収入に応じた生活で我慢しなさい」と、企業側にとっての都合の良い理論になりはしないか。そこを五十嵐氏に問うた。
同氏は「二宮金次郎が唱える『分度』とは、ただ単に『収入に応じた生活をしろ』というものではないと思っています。収入に見合った支出をなすために、生活の無駄をなくし、1年の支出を計画的に行うことにより必ず余分が生まれることを求めた。その余分を生み出すことが『分度』の大切な点だと思います」と説明。「その余分を積み上げて、まだ立ち直ることができない人々への再建資金にあてたのです。これが金次郎の唱える『分度』と『推譲』だと思います」と補足した。
渋沢は天保年間の1840年生まれ。16歳まで二宮尊徳は生きていた。分度の精神は、江戸末期の同じ空気を吸う中で引き継がれていたのかもしれない。(デイリースポーツ・北村泰介)