ピカチュウの声にそっくり カメの鳴き声…これまでの常識覆すカメ学の進化
ゆったり、のっそり静かに動くカメ。だが、実はあのカメたちは鳴いているらしい。しかも、ふ化したばかりの子ガメが母ガメを呼ぶという。さらに、あのピカチュウに似た声、という。いや、カメって卵産んだら海に帰ってしまうんじゃないの? にわかに信じがたい話だが、「この9年間、日本のカメ学をリードしてきました」と自負する神戸市立須磨海浜水族園(神戸市須磨区)でその声が聴けるというので、行ってみた。
担当の石原孝さんに案内されたのは、その名も「カメは春から夏に鳴く」という企画展だ。同水族園では、年に1度、水圏生物の研究や環境保護に優れた業績を挙げた研究者を表彰する「神戸賞」を贈っており、今年は、声帯がないため鳴かないと思われていたこれまでの常識を覆し「カメが鳴き交わす」ことを明らかにしたブラジル人のカミラ・フェラーラ博士に決定した。これを受け、スタッフのカメ愛と知識を結集した企画を次々と開催しているのだという。
と、前置きはこれぐらいにして、声だ。アオウミガメなど4種のウミガメが泳ぐプールの脇に立つと、ん?上方のスピーカーから小さな「キュウー…」という声が。隣のスピーカーからはちょっと低い「ギュウ…ギュウ…」という音。もしや、これが?
「ええ。カミラ博士が最初に発見した、オオヨコクビガメという大型の淡水ガメの声です。アマゾンの川岸に生活していて、卵を川岸の砂の中に産み、子ガメがふ化すると母ガメを呼ぶんです。母ガメは川の中で待っていて、子ガメの声を聴くと鳴き返すそうです。約40~4500ヘルツという人には聞き取りづらいほど低い周波数のため、誰も気が付かなかったのかもしれません」(石原さん)
カメって産みっぱなしとばかり思っていたら…。しかも、このオオヨコクビガメは繁殖期になると、メスが列になって産卵の順番待ちをするそうで、そのときも「早くしてー」とばかり鳴くのだという。さらに、隣のスピーカーからは高い声で「ピュウ」と鳴く声が!確かにピカチュウの「チュウ!」に似てない…こともない…かもしれない!
「これは、ふ化したばかりのアオウミガメの子ガメの声です。カミラ博士はさらに、ウミガメの仲間のオサガメやアオウミガメも鳴き交わしていることを突き止めました。オサガメは、アオウミガメより小さな声で『ピュ』と鳴いています。かわいいでしょう?」(同)
同水族園では、先代園長で、NPO法人日本ウミガメ協議会前会長・亀崎直樹さんのもと、両前足(ヒレ)に義肢を着けたアカウミガメ「悠ちゃん」や外来種のミシシッピアカミミガメの問題、ニホンイシガメの保護などに取り組んできたといい、会場には世界や日本のカメのことが一目で分かるパネルがずらりと並ぶ。素人にはお腹いっぱいになりそうな情報量だが「これでも、かなり削ったんですよ」と石原さん。「カメと一緒にカメ好きの人間も集まるようになった」そうで、石原さん本人も「大型のウミガメでも脳みそは大人の小指ぐらいしかないんです。なのに、どうやって回遊とかコミュニケーションとか複雑な動きをしているんだろう…って。すごくないですか?」と目を輝かせる。
ちなみに、同水族園では6月8日から30日までの土日に、一般家庭で飼育されているカメの声を録音する特別企画「きみのカメは鳴いている?」を開催(2週間前までに予約が必要)。集まった「声」をもとに、カメの音声コミュニケーションの研究をもっと深めていきたいという。
ほら、耳をすませば、あなたの家や身の回りのカメも鳴いているかも、しれませんよ?
(まいどなニュース・広畑千春)
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神戸市立須磨海浜水族園 http://sumasui.jp/